伊坂幸太郎さんの長編小説「ゴールデンスランバー」の感想記事です。
初版は2007年11月に発刊。
この小説は山本周五郎賞と本屋大賞をダブル受賞。
本の読み放題サブスク「Kindle Unlimited キンドルアンリミテッド」で読みました。
紙の本も持っていて何度も読んでいますがやっぱり面白い!実写で映画化されていて映画もおすすめです。
「ゴールデンスランバー」のざっくりあらすじ
仙台市出身の総理大臣が仙台のパレード中にラジコンヘリを使った爆撃で暗殺される。
得体の知れない大きな力に、殺人犯として標的にされる主人公青柳。
次第に主人公の周囲の人間にも被害が出始めて、事態は深刻な展開に。
親友の最後の言葉を胸に、とにかく頑張って逃げる。
「いいか、青柳、逃げろよ。無様な姿を晒してもいいから、とにかく逃げて、生きろ。人間、生きててなんぼだ」
あとがきに書かれていましたが、この作品はアメリカの大統領ジョン.F. ケネデイの暗殺事件をモチーフにした作品とのこと。本編の主人公もオズワルドさながら犯人にされてしまう。
巨大な組織に個人が立ち向かう
逃げ続ける青柳。個人でできることは非力だけど、やってやれなくはない。ゲームオーバー1歩手前のギリギリのラインでなんとか踏みとどまって、逃げる姿は感動すら覚えます。
青柳の父親もパンチが効いていてここも見どころ。
それから、仙台駅周辺で刃物で無差別殺人をする「キルオ」という人物がひょこっと登場します。全然関係ないキャラが急に出てきて読んでいて困惑しましたが、キルオがいいスパイスになって物語が面白くなっていると思いました。
気になったところ
中学生らしくないことを言う中学生。なんとなくいいネーミングの組織や政策は気をつけたほうがいい。
「思いやり予算ってのも、あるでしょ」「在日米軍の駐在経費のうちさ、日本が出してあげてるお金のことだよ。思いやり予算、なんて言われると、慈善事業に使っているような気分になるけどさ、結局は、米軍のために払ってるだけなんだよ。アメリカに対しての思いやり、ってよく分からないでしょ。これもきっと、ネーミングの技術だよ。聞こえがいい名前はたいがい怪しい。」
ゴールデンスランバー
大学の同級生との会話
「年賀状が届かなくなって、引っ越したのは分かったけど。学生時代の俺たちは、まさか卒業後、こんなに音信不通になるとは思っていなかっただろうね」
ゴールデンスランバー
小説のタイトル「ゴールデンスランバー」はビートルズの最後のアルバムに入っている曲。このアルバムを作っている当時のビートルズ4人はまとまりがなかった。ポールマッカートニーはなんとかこのアルバムで4人のつながりを元に戻そうとしたけれど、結果的にはダメだった。
今回の小説の内容とこのゴールデンスランバーがどう関係があるのか、ちょっと理解できていないところもありますが、主人公と親友が交わす台詞にその答えっぽいものがあるのかも。
「出だし、覚えてるか?」と森田森吾は言った後で、冒頭を口ずさんだ。「Once there was a way to get back homeward」「昔は故郷へ続く道があった、そういう意味合いだっけ?」「学生の頃、おまえたちと遊んでいた時のことを反射的に、思い出したよ」「学生時代?」「帰るべき故郷、って言われるとさ、思い浮かぶのは、あの時の俺たちなんだよ」
「今はもうあの頃には戻れないし。昔は、帰る道があったのに。いつの間にかみんな、年をとって」
ゴールデンスランバー
学生時代を終えて、社会人になって色々なことがあって、みんなそれぞれの人生を頑張って生きている。僕も時々、学生時代を思い出します。打算の無い人間関係は懐かしい。社会人になって以降、同世代のそういう人間関係ってなかなか築きにくいもんなあ。
「最後、別れる時、彼女、俺のアパートに設置されてる消化器持って大暴れしたんすよ。噴射して」「それはまた、思い出に残る別れ方だな」「消化器で、恋愛の火も消えたんですよ」「そんな、うまい表現をするなよ」
ゴールデンスランバー
大学の卒業間近の頃に友人のアパートに遊びに行ったら、友人の彼女が包丁を持って「別れるなら、ここで死ぬ!」と叫んでいて、後に同じように遊びに来た友人が彼女の包丁をなんとか取り上げてことなきを得ました(僕はオロオロしてただけ)。上の引用文を読んでそんなことを思い出しました。
わたしね、平気な顔して嘘をつく大人にだけはなりたくないんだよね。嘘をつかざるをえない時はさ、やっぱり、それなりに苦悩して、悶え苦しんでくれないと
ゴールデンスランバー
主人公の青柳と昔の彼女樋口晴子の会話。この二人はすごくいいカップルだと思うけど、なかなか難しいもんなんだなあ。
「思えば俺たちってさ、ぼうっとしてる間に、法律を作られて、税金だとか医療の制度を変えられて、そのうちどこかと戦争よ、って流れになっていても反抗ができないようになっているじゃないですか。何か、そういう仕組みなんだよ。俺みたいな奴がぼうっとしてる間にさ、勝手にいろいろ進んでるんだ。前に読んだ本に載っていたけど、国家てさ、国民の生活を守るための機関じゃないんだって。言われてみれば、そうだよね」
ゴールデンスランバー
2007年の作品ですが、今はこの文章が非常にリアルに感じます。フィクションではなくて現実だと。
まとめ
伊坂幸太郎さんの作品は時々、社会風刺の効いた物語を書くことがありますが、ゴールデンスランバーは特に社会風刺が効いていますね。
実写映画のゴールデンスランバーもめちゃ面白いのでぜひチェックしてみてください。
堺雅人さんが主人公で、他の登場人物も小説のイメージを壊さないい配役でした。
U-NEXTでも見れます。
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