橘玲さんの小説「HACK」の感想・考察・解説。

2025年10月発行。
この作品はKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)で読みました。
仮想通貨とマネーロンダリングの話が面白い!

タイトル通りハッキングの話、犯罪者のマネーロンダリングの話、仮想通貨の話など、スリリングで面白かった。
小説「HACK」のざっくりあらすじ
小説「HACK」の簡単なあらすじと感想を書きます。
内容を大まかに書いていますが、ネタバレはしていません。
大きくパートが3つに分かれていて、パートごとに舞台になる国が変わっていきます。
主人公の樹生(たつき)はハッカー。高校の頃から仮想通貨に興味があり、黎明期に買っていた仮想通貨で大きな報酬を得る。納税から逃れるためにタイで暮らしている。
パート1
最初のパートは、主人公の樹生が咲桜(さら)と接触。そして詐欺グループ摘発の協力に巻き込まれる物語です。
樹生はタイで沈没男なる人物と組み、ビットコインを使ったマネーロンダリングを試す。元を辿れば炭治郎という犯罪グループのトップから頼まれていた。
並行して、樹生は咲桜(さら)に依頼されていた簡単な仕事をし、いろいろと話をする。咲桜は黒木という男の秘書をしている。黒木はいわゆるヤクザだが咲桜を日本からタイへ逃してあげた人物でもあった。
樹生は咲桜が日本でアイドルとして活動をしていた頃からのファンだった。
咲桜に仮想通貨やハッキングについて質問され、解凍するシーンが個人的に面白かったです。
樹生が仮想通貨に興味を持った理由↓
「中央集権的な管理者のいない分散型の社会をつくる」というリバタリアンの思想信条を、テクノロジーを使って現実のものにできることに衝撃を受けた。
HACK
その後、榊原という検察官から、日本を出国する際に納税をしていないことを突かれ、検察の協力する羽目になる。北朝鮮の犯罪組織から500億年を取り戻して欲しいとお願いされる。検察の間でもハッカーコミュニティの中でも樹生は有名人らしい。
この物語をかなり割愛してあらすじを書いていますが、樹生はただ静かに暮らしたいと思っているのに、周りの人間はそうさせてくれません。そこがなんとも悲しい感じ。ジョジョの奇妙な冒険の吉良吉影みたいにただ静かに暮らしたいだけなのに 笑。
そして、日本に帰って検察の協力をすることと同時に、咲桜から母を探して欲しいとお願いされる。
パート2
パート2は詐欺グループ摘発の協力と、咲桜の母を探す物語。
日本に帰って、検察官の榊原からの紹介で警部の佐藤と話す。炭治郎を含めた特殊詐欺グループを壊滅するのが目的。日本側の代理人のスマホにポリスウェアを埋め込んで欲しいという依頼を受ける。
その後、土橋に会いに行く。土橋から咲桜をアイドルとしてプロデュースした昔話を聞く。咲桜は宗教団体のコミューンで生まれたらしい。特殊な世界で生まれ育った咲桜がかわいそうですが、土橋の父親のような愛がすごくて救いがあります。
樹生は榊原の捜査網などを利用して、なんとか咲桜の両親の居場所を突き止める。
詐欺グループ摘発の協力に関しては、炭治郎グループの日本担当である無一郎と会い、スマホにポリスウェアを埋め込むことに成功。
物語の中でも書かれていますが、アジアの詐欺グループの人たちは日本の漫画が大好きらしい。ルフィ(漫画のワンピース)だったり炭治郎(鬼滅の刃を見ていないですが、無一郎も鬼滅のキャラクターなのかな?)などのネーミングにしています。
樹生は無事2つのやることを終えバンコクに帰ったが、空港で待つ間に何者かに襲われる。
黒木の協力者であるキム・ソニョンが助けに入ることで無事帰還。
パート3
最後のパートは、樹生と咲桜、キム・ソニョンの3人で北朝鮮の詐欺組織のアジトへ忍び込む物語。
天才ハッカーのHALの手助けもあり、無事にアジトに忍び込めるが…。
終盤はスリリング且つ展開が読めず最後まで楽しめました。
小説「HACK」の登場人物
小説「HACK」に登場する人物はこんな感じです。
全体的にアンダーグラウンドな世界で生活している人が多め。
- 樹生…主人公。1994年生まれ。ハッカー、プログラマー。数字や記号を瞬時に暗記できる。
- 沈没男…40代後半から50代の日本人。マリファナを吸う。海外のロックバンドの話に妙に詳しい。本名は藤木。バックパッカーくずれ。安宿で沈没する間にどんどん年をとり日本に帰ることもできなくなった。
- 炭治郎…カンボジアの詐欺グループのトップ。
- HAL…コロナ禍でハッカーコミュニティで知り合う。コミュニティ内でも伝説的なハッカー。性別もわからず正体不明の人物。会話のやり取りでおそらくユダヤ人だろうと推測。驚異的な活動量なのでAIに近い。毎日退屈をしている。
- 咲桜(さら)…1990年生まれ。アイドル歌手として日本で人気を博す。本名は康子。
- キム・ソニョン…20代後半の男。筋肉隆々。咲桜の仕事を手伝ってくれる。黒木とは協力関係。無口。
- 榊原昭彦…シンガポールの日本大使館に出向している検察官。樹生に検察の手伝いをさせる。
- 黒木誠一郎…元日本のヤクザ組織の幹部。トラブルでタイに流れつく。咲桜をバンコクへ誘った人物。車椅子で60代半ば。
- 葛城…キャバクラの経営者。40代半ば。樹生に会社のバソコンやデーターベース管理を依頼している。
- アリサ…葛城のお店のスタッフ。大生2年生。
- 佐藤…サイバー捜査官。任期付職員の警部。日本で樹生の担当をする。
- 土橋晃一郎…70歳近い。咲桜をアイドル時代から面倒を見ている。咲桜からはお父さんと呼ばれる。
- 和岡元子(旧姓は萩谷)…咲桜の母。結婚6年で離婚。娘のために苗字を変えるのが目的だった。
- 和岡誠治…咲桜の父。宗教団体の毒ガス事件に関与したとされ逮捕、実刑。2018年に出所。23年の刑期。毒ガスを作る元厚生省の幹部。
- 無一郎…20代後半。炭治郎の詐欺グループの日本側の取りまとめ役。
小説「HACK」で面白かったところ
小説「HACK」で個人的に面白かったところ。
音楽の話が興味深い
物語に登場する沈没男は、海外のロックミュージックなど音楽に詳しい。グリーンデイの伝説の話、レディオヘッドやニルヴァーナなどの話も面白い。
それから、ハッカーのHALがテレサテンに興味を示すシーンがあります。海外の人間が日本語で歌う際に、ネイティブに歌えているか?という質問を主人公にする。テレサテンは日本語での歌がかなりうまい。個人的にテレサテンのことはそこまで知りませんでしたが、42歳の若さで亡くなっていて、暗殺説もあったらしい。これはこれでちょっとびっくり。
他にもK-POPのブラックピンクの話や、シューゲイザーの話など、本編の内容とは別に楽しめました。
VPNとTorについて
以前からVPN(仮想専用線)とTor(トーア)について気になっていました。インターネットを使用する際に匿名性を高めることができるようです。
Torはオニオンルーティングという技術で通信を匿名化しており、専用のブラウザを使わないと.onionドメインのサイトにアクセスできない。もともとは独裁政権下で民主化運動をするグループのために開発されたが、犯罪者などが利用し始めてダークウェブと呼ばれるようになった。VPNはインターネット上に仮想的な専用回線を構築してデータを暗号化し、盗聴や中間者攻撃を防ぐ技術だ。
HACK
こういう技術は理解が浅いので逆に使うのが怖くて近づけないイメージがあります。
ドラッグの話
タイでは大麻を合法化しているので、大麻の話が細かく書かれていました。
大麻の話(THCとCBD)や、ゾンビドラッグの話など、知らないことが多く興味深かったです。
仮想通貨の説明がわかりやすい
樹生がビットコインの説明を咲桜にするシーンがあります。
ビットコインの説明がわかりやすくてよかった。
「えーと、ビットコインはブロックチェーンっていう帳簿でつくられた、ネットワーク上だけで流通するお金です」
HACK
「ええ。ぼくたちはふつう、お札や硬貨など現金の取引が先にあって、そのやり取りを帳簿に記録するんだと思っていますよね。でも、現金なしでもお金の取引ができるんだから、この常識は間違っている。まず先に帳簿があって、細かなやり取りをいちいち帳簿に書くのが面倒だから、それを簡便化するために現金が使われるんです。だとしたら、取引を自動的に記録してくれる完璧な帳簿があれば、物理的なお金はいらなくなる」
HACK
他にもたくさん引用したい箇所がありますが、全部引用する訳にもいかず ^^;
かなりわかりやすくて、しかもワクワクする面白さ。ぜひ読んでみてください。
樹生がタイに住んでいる理由
樹生がタイで暮らしている理由は最初にも来ましたが、納税から逃れるため。
マレーシアの最大の魅力は、個人の居住者の場合、国外所得が暫定的に非課税になっていることだ。当初は2026年までだったが、その後、2036年までの延長が決まった。
HACK
2022年にマレーシアに移住してから、国内にあるクリプトを海外の交換所でドルに換えて香港の銀行に送った。非居住者になれば日本国への納税義務も無くなるが、仮に税務当局から否認されても、民法の時効は刑法とはちがい海外にいても停止することはないと解されるので、最長七年で納税義務は消滅する。
HACK
他にもデジタルノマドビザの活用の話など、知らないことばかり。
世界情勢のことを勉強したり、他の国のルールを知ること、いろいろな知識があると賢く得ができる。
勉強が大事なのはこのあたりに一つの理由があるのかも知れません。とは言え、樹生は暗号資産のこともハッキングも好きでやっていて、追求していたら自然と身につけたことだと思うので、やっぱり好きなことを追求していくことが重要だったりするのかも。
樹生が悲しいのは、結局この法の抜け道のようなものを検察官の榊原に指摘され、無理やり検察官の仕事に協力させられることです。
謎の伝説的ハッカーHALの存在
この小説では伝説的な天才ハッカーのHALが登場します。
樹生と馬が合うようでよくやりとりをしている。
この素性の知れないHALの存在がこの物語をスパイシーに面白いものにしています。
スマホの脱獄、スパイウェアの話がえぐい
樹生がスマホを脱獄(ジェイルブレイク)してOSの設定を変え、スパイウェアを忍び込ませるシーンがあります。
スマホの中身が全て見え、しかも自由に操作もできる。一時的なものでもあるが、恐ろしい ^^;
ゼロデイ・ゼロクリックというポリスウェアがえげつない。SMSでテキストを受信するだけで感染。スマホを乗っ取られる。ただ、どんどんアップデートが進んでいるので、使えるのは一定期間だけ。
ワールドコイン
無一郎が話すワールドコインについて。
ワールドコインはChatGPTを開発したOpenAIのサム・アルトマンが共同創業したプロジェクトで、今後、AIがもたらすであろう無尽蔵の富と原資に、世界中の八〇億人にベーシックインカムを提供することを目指している。そのために考案された暗号資産がワールドコインで、Orb(オーブ)と呼ばれる専用端末で虹彩を認証するとID(World ID)が発行され、毎月一回、配当が受け取れる。現在は月額一〇〇〇円程度だが、将来的には、配当だけで誰もが働かずに暮らしていけるのだとされる。
HACK
世界に馴染めない
樹生は咲桜やキャバ嬢のアリサ、宗教団体のコミューンの人たちと出会う中で、自分自身について考えていきます。
「ぼくはふつうの家庭に生まれて、ふつうに育って、大学院まで行って就職して、会社を辞めちゃったけど、海外をふらふらしながら自由に暮らしてる。これまでそれが当たり前で、疑問に感じたこともなかった。でも、この世界にはそうじゃない人生があるんだってことを思い知らされたんだ。だけど、あまりにもかけ離れていてうまく理解できないし、それをどういうふうに話していいかもわからない」
終盤は咲桜のために命懸けで行動するんですが、おそらく本来はそんな人物でもない感じはします。色々な人と出会って感化され、変化していくシーンも一つの見どころ。
シャンタラムの雰囲気に似ている
樹生と咲桜の会話の中で「シャンタラム」という小説の話が登場します。シャンタラムの物語はなんとなくこの小説に似ています。シャンタラムから着想を得たのでは?と思うほど。シャンタラムおすすめです。

まとめ
橘玲さんの投資に関する本や、社会・経済に関する本を何冊か読んだことがありますが、小説を読んだのは初めてです。
今作は11年ぶりの書き下ろし長編小説とのこと。
橘さんは海外に住んでいるイメージ(個人的な勝手なイメージです)がありますが、この小説に登場する海外の登場人物たちの生活は、かなりリアルに描かれているのではないかと推測しています。リアリティと説得力があって物語に入りやすかったです。
タイの社会情勢、近年の戦争の話、犯罪の話、トクリュウの話も登場します。
物語はフィクションですが、その背景にある生活やテクノロジーに関しては全部を調べた訳ではないですが、かなり真実で現実に起こっている話です。
生成AIや仮想通貨、これからのテクノロジーの話がとても刺激的な作品でした。
Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)でも読めますので(タイミングによっては読み放題で登録されていない場合もあります)、ぜひ読んでみてください。



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