川上未映子さんの小説「春のこわいもの」の感想・考察・解説。
この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。
オーディブルオリジナル作品として配信されていますが、紙の本もあります。
僕はホラー小説が好きなので、タイトルから勝手な想像でホラー作品を期待していましたが、全然違いました ^^;
6編の短編集。
2021年の作品で、どの話もコロナ禍を背景にした物語です。

川上未映子さんの小説は読んだ後も記憶に残り続けるからすごい!
小説「春のこわいもの」のあらすじと感想
オーディブルで聴いているので人名の漢字が不明です。ですので、名前はカタカナ表記にしています。
また、引用文も耳で聞いたことを文字にしているので、漢字や句読点の場所など正確でない可能性が高いです。その点ご了承ください。
青かける青
主人公は入院中の21歳の女子大生。
原因不明の病気。コロナが関係しているのかも?
「君」に宛てた手紙が物語になっています。
手紙の内容は手術をした話、これからの未来の話。
この物語はナレーションの良さでクオリティが倍増している感じはします。
若い頃の悩みは歳を取ってみると馬鹿らしい悩みだったなと思いますが、その時の本人にとっては生死を分けるくらい重大なもの。そんな感傷が伝わってくる物語でした。
ねえ、戻れない場所がいっせいに咲く時が、世界にはあるね。ずっとずっと元気でいてください。お元気で。
青かける青
あなたの鼻がもう少し高ければ
主人公のトヨ。21歳。整形に興味がある。
整形のインフルエンサー的存在のもえしゃんに憧れている。
もえしゃんは若い女性を使ってお金稼ぎの斡旋をしていた。
トヨは憧れのもえしゃんに仕事を斡旋してもらうため、高級ホテルへ面接に行く。
ホテルの化粧室で、流行りの整形を全てやったかのような顔のマリリンと遭遇。(名前は後で知る)
エレベーターでも一緒になり同じ階で降りる。どうやらマリリンも同じ目的らしく、一緒に面接を受けることに。
もえしゃんは面接には来ず。代わりの女性が面接。面接をした女性も有名なインフルエンサー。結果は二人とも不合格。トヨが不細工なこと、なぜ整形して面接に来なかったのか?容赦無く責められる。
帰りにマリリンと二人で飲みに行き話を聞く。同い年の21歳だった。
ふと、小学生の頃の同級生のことを思い出す。その子になんとなく仕草が似ている気がした。整形しているので元の顔はわからない。
二人で話をしていて、「コロナで誰も顔を見ない世界になったらどうなるのだろう?」と考える。
トヨはマリリンとの会話でどこか吹っ切れたように見える。美に対する悩みに少し白けたのかも?
映(ば)え、世間からこう見られたいという欲、ルッキズム。トヨにとって最も重要なこと。
勉強したりスキルを身につけて自分の能力を高める、みたいな考えは物語には出てこず。若い頃はいいけど歳を取ったらどうするんだろう、みたいなおっさんのお節介心がついつい沸き起こりました。
それにしてもトヨの価値観で生きる世界めちゃきつい。
終盤に外見とは違う何か大事なものを見つけたっぽい(?)のでよかった。
花瓶
高齢の女性が主人公。意識が朧げで、もう自身の命が長くないことはわかる。
毎日来る家政婦を見るといつも思い出す。
昔あった不倫での性交の記憶。
死は全く怖くない。痛みも少ない。
しかし、昔の記憶や、あの頃に抱いた熱い欲情は、死んでしまうとどこかへ霧散するのだろうか?
死についての考察と生きることの生々しさが、読んでいて心に刺さってくる。
長く世話をしてくれた家政婦と初めての長話。花瓶に花がない理由。
なんともやるせない物語ですが、主人公の性交の記憶のような「時間が経っても何度も思い出すくらいの鮮烈な経験」を、生きている間にたくさんしておかなきゃなと思わせる話でした。
淋しくなったら電話をかけて
レイモンド・カーヴァーの短編集にかなり似たタイトルがあるんですが、この物語を読んだ感じだと全然関係ないっぽいです。
41歳の女性が主人公。
作中ずっと頭の中で一人で会話をしています。
喫茶店に入ると、隣でカレーを食べる老婆が気になる。スプーンの音がうるさい。
左隣には携帯で喋る女。10本の指のうち8本に大きな指輪をしている。
後ろの女性グループの紫デブ。(言い方がひどい)
マスクをしないといけないが、どこに行ってもマスクが売り切れて不満。
家に帰ってスマホを眺める。SNSの誹謗中傷で自殺した作家。誹謗中傷したことで怯える主人公。(あんたが誹謗中傷しとったんかい!)
夜になってまたあの喫茶店に行く。まだあの指輪8個の女性が電話をしていた。(電話長いな!)
この小説を読みながら途中で気づきましたが、人物描写が村上春樹さんの小説っぽい。かなり作風が似ている気がします。もしかするとあえて意識して書いているのか?それとも元々、川上未映子さんの小説がこのスタイルなのか、判断できず。
気の狂いそうな閉塞感が表現された物語でした。
ブルー・インク
主人公は高校生。仲の良かった同じ高校の女子と手紙のやり取りをしていた。
彼女は万年筆で手紙を書く。
その内容は主人公に宛てた内容では無く、彼女が創作した物語が書かれたものだった。
ある日、学校で彼女にもらった手紙を無くしてしまう。
電話でそのことを伝えると、一緒に深夜に探しに行きたいと言う。
夜の教室(デッサン室で無くした)で手紙を探す二人。
過去に学校の暗室(写真を現像する部屋)で女生徒が閉じ込められ、夏休みだったため誰も気づかず衰弱死した話をする彼女。
手紙が見つからないことで、だんだんと怒りが湧いてくる主人公。
終盤、主人公の頭の中の会話が多くなります。
この物語だけ、ちょっとよくわかりませんでした ^^;
娘について
主人公のヨシエ。ある日、学生時代から仲の良かった三砂アンナから電話がかかってくる。
特に内容のない電話だったが、そこから、二人で過ごしていた過去の回想が続く。
ヨシエは作家志望、三砂は美人でファッションに興味があり将来は女優を目指していた。
夢を叶えるため二人で2年近く東京で活動をしていたが、三砂はほとんど活動をせず、女優になる本気度を見せてくれなかった。
ある日、そのフラストレーションが溜まったヨシエは三砂に本音をぶつける。
三砂の家はお金持ちで学生時代からなに不自由なかった。美人でお金もあるのに、なぜもっと頑張らないのか?
二人の関係はギクシャクしたものの、三砂がやがてチャンスを掴めそうになると、ヨシエは足を引っ張る。
この複雑な感情。良くないとは思いつつ、共感してしまう。
三砂の母の過保護ぶり。三砂の世間知らずさ。「お金持ちが成功する」ことへの嫉妬。
純粋な優しさに気づかず、傷つけてしまった。嫉妬と憎しみできちんとその人が見えなかった。
とても感情を揺さぶられる作品でした。
最後のこの物語は「春の怖いもの」の中でも代表的な作品じゃないかな?と勝手に思っています。
オーディブルで聴くのが超おすすめ!
この作品はオーディブルで聴きました。ナレーションは岸井ゆきのさん。
調べてみるとかなり活躍されている女優の方でした。ドラマや映画をあまり見ないので全然知らなかった ^^;
この作品の物語と岸井ゆきのさんのナレーションがすごくマッチしていて、オーディブル作品としてかなりクオリティが高いです。ぜひオーディブルで聴いてほしい。
最初は「素人みたいなナレーション(声のプロではない感じ)で素朴でいいな」、くらいの感じでしたが、物語の内容を聞いていくにつれ「これはわざとこの素人っぽいナレーションにしているのでは?」と疑うようになり、一杯食わされました(表現が古い)。
まとめ
個人的には整形の話、花瓶、最後の娘について、の3作品はかなりインパクトが強かったです。
川上未映子さんの作品はこの作品も含めて2冊目なので、作風がまだよく掴めていません。
今作は特に村上春樹っぽさをかなり感じました。細かい描写、心象風景もそれっぽい。これについては、他の作品をいくつか読んでみて調べてみたいと思います。調べたとて、別に何もないですが 笑。
この作品は特にナレーション推しです。
オーディブルオリジナル作品の理想の完成形と言っても過言ではありません。



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