村上春樹さんの短編小説「カンガルー日和」の感想・解説・考察を書きます。
18篇の短編小説集。
文庫本を持っていて何度か読んでいますが、今回はAudible(オーディブル)で聞いてみました。

不思議な話やほのぼのした話が多め。短編なので気軽に読めます。
「カンガルー日和」の中でも好きな短編について
18篇ありますが、1話が短いので内容を書くとネタバレ気味です。一応、重要な部分は伏せています。
個人的に良かった話をご紹介します。
カンガルー日和
短編集の表題作「カンガルー日和」。もうこの話を読むだけでも満足なくらいに、ほのぼのしていい作品です。
主人公と妻が近くの動物園にカンガルーの赤ちゃんを見にいく話。
色々と都合が合わず、行こうと思っていた日から一ヶ月が経過し、カンガルーの赤ちゃんは赤ちゃんではなく子供くらいのサイズになっていた。残念に思う妻。慰める主人公。
「カンガルーはなぜ赤ちゃんを袋に入れて守るのか?それは人間がブーメランで襲ってくるから、逃げやすいように」という二人の会話が妙にリアルで(実際にそうだったと思いますが)印象的でした。
また、妻の「ドラえもんのポケットは体内回帰願望」というセリフもなんかよかったです。
鏡
ホラー小説が好きでこのブログの3割くらいはホラー小説の感想を書いていますが、この「鏡」は村上さんの小説では珍しくホラー仕立て。
怪談を一人一人披露して、最後に主催者でもある主人公が話を始めます。
30年生きてきた主人公ですが、幽霊は見たことがない。ただ、不思議な体験をしたことがあり、その話をします。
昔、学校の夜警のアルバイトをしていた時の話。深夜に学校を見回る。そこで起きた不思議体験。
特に怖かったのは、村上春樹さん流の「擬音」の表現。こんな表現をするのは他のホラー作家さんの小説でも見たことがありません。
おそらくこの話を好きな方は多いと思います。それくらい印象深い話でした。
1963/1982年のイパネマ娘
主人公の過去の回想の物語。
昔一度会ったイパネマ娘との会話を思い出す。そして20年後にまたばったりと再会する話。
イパネマ娘は「形而上学的な足の裏」を持っていた。
ビーチと夏の雰囲気が非常に心地よい作品。
チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏
1973年くらいに主人公と妻は三角地帯にある一軒家に住んでいた。
三角と言っても鋭角の鋭い、チーズケーキのような細い三角地帯。
2本の線路に挟まれ、とにかくやかましい一軒家だった。
一軒家であるにも関わらず、騒音がすごいので家賃は安かった。
金がなければないで、人生はすごく簡単だ
カンガルー日和
この話は村上さん自身の体験談も少し入っているように感じました。学生結婚をしていて若い頃はお金がなかった、という話をエッセイで読んだ記憶があります。
図書館奇譚
図書館奇譚は短編の連作になっています。全部で6話。
私立図書館でオスマントルコ帝国の税収政策に関する本を借りようとした主人公の少年。
おそらく小学生くらい?難解な本を読むんだなあ。
本のことに尋ねられた図書館の司書の老人。この老人がものすごく怒りっぽく、しかも危険な存在。
オスマントルコ帝国の税収政策の本は貸出ができないので、図書館で読むように言われ、少年は地下の閲覧室に連れて行かれる。
私立図書館の地下にアリの巣のような枝道が広がる空間があることにびっくりする主人公。
しまいには牢屋で本を読まされます。
黒い手袋、靴、フェイスマスクをした「羊男」も登場。
謎の美しい少女が手伝って主人公と羊男の3人で牢屋から逃げ出す、という物語。
なかなか意味不明なファンタジー作品ですが、読みながらなぜか映画のハリーポッターを思い出しました。
他にも
他の作品もざっと紹介すると
- 結婚式に行くと眠くなる主人公の話。スープを飲みながら寝る始末。
- タクシーに乗ると運転手が吸血鬼だった話。
- アシカが喋る世界の話。アシカ祭りなるものが開催される。
- 謎の銘菓「とんがり焼き」の新商品開発に応募する話。
- スパゲッティーを茹で続ける話。
などなど。
基本的にオチのようなものはほとんど無く、ほのぼのした話や不思議な話が多かったです。
オーディブル版「カンガルー日和」について
オーディブルではナレーションを多部未華子さんが担当しています。
透明感のある声で癒されます。声の使い分けもバッチリで、物語もしっかり入ってきました。
これはオーディブルがどうこうというよりは、おそらく僕はやはり紙の本が好きなのかも知れません。特に村上春樹さんの作品は活字で読むのが一番なんかこう味わいがあっていいです。
もちろん、オーディブル版も非常に素晴らしいので気になった方は是非。
あとがきでは
あとがきで村上さん自身が本書について説明していました。
月刊のマイナーな雑誌に、1983年から毎月1話、計2年間掲載をした短編を集めたのがこの「カンガルー日和」とのこと。改めてそう聞くとかなり古い作品です。
図書館奇譚が連作になった理由は、村上さんの妻からの「連作も読みたい」というリクエストに応えたからだそうです。
短編のどの物語も全体的に1980年代の風味があり、少し色褪せたような、からっと乾いた懐かしい雰囲気でなんとも心地よい読み応えでした。
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