荒木飛呂彦さん原作、北國ばらっどさんの小説「岸辺露伴は倒れない 短編小説集」の感想・解説・考察を書きます。
2022年12月発行。オーディブル版は2024年11月配信開始。
この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。
少年漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ小説。
過去のジョジョの小説もオーディブルで配信してほしいくらいに面白い。ジョジョは登場人物のセリフの言い回しが魅力でもあるので、ナレーションによってさらに作品が輝いています。
アニメ化しても全く違和感がないくらいに「ジョジョの奇妙な冒険」してます。原作者の荒木飛呂彦さんへの愛が伝わってきました。
小説「岸辺露伴は倒れない 短編小説集」について
小説「岸辺露伴は倒れない 短編小説集」は「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部に登場する岸辺露伴が主人公です。
岸辺露伴は人気キャラでスピンオフ作品が複数あります。(僕自身全く追えていません)
この小説は短編3話が収められています。オーディブルで聴く感じだと1話ずつが割とボリュームあるように感じました。
3つとも岸辺露伴が27歳の頃の物語。ジョジョ4部では20歳だったので原作の7年後の話。リアルタイムで漫画の原作を読んでいましたが、露伴先生20歳だったのか…。20歳の若さで漫画家として世間的に名を馳せていたので、今考えてもやっぱり只者ではない。
岸辺露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」は無敵と言ってもいいくらいに強力。今作でも要所で活躍します。
ナレーションが豪華
オーディブルのナレーションは、盆子原康さん、宮城一貴さん、のぐちゆりさんの3人。
3名のナレーションに加えて効果音もありアニメ作品を聴いてる感じで満足度が高い。
主人公の岸辺露伴の声は盆子原康さん。アニメ版だと櫻井孝宏さんが担当していて声がめちゃかっこいい。盆子原康さんの声も、アニメ版の声に寄せているのかオマージュを感じられました。(元々声が似ているのかも)
物語の面白さに加えてこのナレーションの豪華さ。最近聴いているオーディブル作品の中でも群を抜いて楽しめました。
小説「岸辺露伴は倒れない 短編小説集」のネタバレを含む感想・考察・解説
小説「岸辺露伴は倒れない 短編小説集」の3話について、1話ずつ解説をしていきます。
内容をほぼ書いているのでネタバレがダメな方はご注意ください。
ざっくりしたあらすじと個人的に気になった部分や感想も付け加えています。
※オーディブルで聴いたので固有名詞や名前の漢字がわかりません。カタカナ表記にしています。
黄金のメロディ
1話目の「黄金のメロディ」は最高の音を追い求める人物が、周りにすごい迷惑かける話です。
露伴とイサカキョウメイの出会い
物語は岸辺露伴が20歳の過去のシーンから始まる。
露伴は火事でオーディオが燃えたと言っていますが、この火事はおそらく仗助と露伴がチンチロリンで勝負した時の火事だと思います。(宇宙人のミキタカをサイコロに変身させてイカサマで露伴に一泡吹かせようとしていた話)
新しいオーディオが欲しかったので、ネットで良質なオーディオを販売しているお店を調べた。そのお店は「サカモチレコード」。店主はイサカキョウメイ(井坂共鳴?)という若い男。岸辺露伴よりも若いので10代後半くらい。
露伴が住む杜王町とはかなり遠い場所にそのお店があり、取材のついでに立ち寄ることにした。
キョウメイは音楽が好きで音楽家を目指した時もあったが、プレイヤーとしての才能がなかったと自覚し、聴くことを専門にしている。親のレコード店を引き継ぎ、インターネット上での販売を始める。
客に対してはマニアックな知識語りをし、「こんな知識をあなたは持っていないでしょ?そんな人にはこのオーディオは売れない」というような高飛車な接客をしていた。対面での接客は向いていないが、ネット販売ではそのマイナス部分が表面化されず商売はうまくいっていたっぽい。
そんなお店に岸辺露伴がお客として尋ねる。
岸辺露伴との出会いで、キョウメイは「音楽を最高の環境でお客に届ける」ということを初めて経験する。初めて本来の仕事をしたことに気づき、キョウメイは露伴に感激、感謝。心を入れ替えた。
編集者のイズミキョウカが登場
物語の本題は、それから7年後の現在の話。
読み切りの漫画の依頼で編集者のイズミキョウカ(泉鏡花?)が岸辺露伴の家に行き、打ち合わせをする。
現在の露伴は破産してオーディオも売り払い、仕事場も引き払ったらしい。この部分は何があったんだろ?前作のエピソードを引き継いでいるのかも知れませんね。
打ち合わせの中、サカモチレコードから招待状が届く。
一緒にその招待状を見たキョウカは、イサカキョウメイが住む町は、急激に人口の減少が進んでいてニュースにもなっていたことに気づく。また、その招待される日は「金環日食」の日でもあった。
読み切り漫画のネタに持ってこいということで、イズミキョウカも同行することになる。
招待された町には人がおらず、異形がいた
その町に到着すると無音。完全に静まり返っていた。町には人も猫や犬などの動物ですらいなかった。
そしてその町には異形の怪物が待っていた。
この怪物はキョウカにも見えているので、つまりスタンドではなく、本当に怪物が存在している。
僕がイメージする怪物のイラストを描いてみました。
全身は機械のようになっていて人型。頭の代わりに大きなスピーカー。ケーブルだらけの手足。肌は紫色。背中には大きな箱を背負っている。音響機器の人型の集合体。
最高の音楽に触れるため、犠牲を厭わないキョウメイ
イサカキョウメイは最高の音楽を聴きたいがために、自身の体を改造した(半分機械のような)。怪物の正体はキョウメイだった。さすがに度が過ぎているというか、現実味がないですが ^^;
絵や建造物などでは「黄金比率」という、人が美しいと感じる比率がありますが、音楽にも「黄金比音率」というものがあるらしい。
その黄金比音率を伴った音は、金環日食の時に最も純粋な形で聴ける「最高の音」らしい。
露伴を招待したのは、過去に音楽に向き合うことの正しさを教えてくれた感謝の恩返し、だったのかな。
キョウメイはその最高の音楽に触れるためであれば、他人の命すら興味がなく躊躇がなかった。
露伴はそのキョウメイの過ちを止めるため戦うものの、結果としては止めることはできなかった。
異形になり、自身の命を燃やしてでも、最高の音を聞くことに人生を捧げた。
ちょっと悲しいけれどなんだかいい話、みたいな雰囲気で終わります。個人的にはとても好きな物語でした。
原作者 岸辺露伴
2話目の「原作者 岸辺露伴」は過去に自身の漫画がドラマ化されることになり、その撮影現場で起こった話。
漫画を映画化する話を断る露伴
冒頭はシノハラ編集者と露伴が仕事の打ち合わせをするシーンから。
露伴の漫画を映画化したいとシノハラに説得される。だが、露伴は断固として断る。
「だが、断る」は岸辺露伴の有名なセリフですが、思わずこのセリフが頭をよぎりました。
人気漫画の映画化は興行が見込めると力説するシノハラだったが、露伴が映画化を断る理由を教えた。
漫画をドラマ化。ドラマの現場を取材する露伴
話は7年前に遡る。(露伴が20歳の頃の話)
「異人館の紳士」というオムニバス漫画をドラマ化するということで、作者の露伴も取材という名目で現場に立ち会った。
キャラの濃いプロデューサーと主演男優
ドラマのプロデューサー「キタモト(北本?)」は露伴には丁寧に会話をするものの、制作フタッフにはものすごい剣幕で命令する。
オーディブルで聴いているとこのギャップがめちゃくちゃ面白い。荒木飛呂彦さんらしいユーモアがたっぷり。おそらく声優さんもかなり楽しんで演じてそう。DIO風に言うと「かなりハイ」になってます。
主演男優の「クニエダ(國枝?)」は演技が抜群の今もっとも売り出し中の若手俳優。しかし、マネージャーやAD、制作フタッフには不遜な態度で接する。いびり、ふんぞりかえった態度、このクニエダもキャラが誇張されてて良かった。
リアリティを大事にする作品のあまり怪物が蘇る
この物語も敵役にスタンドは登場しません。
過去の怪人の怨念が乗り移って出現するというオカルトチックな話。
岸辺露伴の描く漫画は取材をきっちりとしている。自分で足を運んで取材して実体験を漫画に投影している。露伴はリアリティを最も重んじている。
「異人館の紳士」では過去に実在した複数の怪人たちが登場する話。岸辺露伴はプロデューサーに「原作に忠実にドラマ化する」という約束をしていた。
だが、プロデューサーはその約束を一部破ってしまい、怪人の1人「オロボグ」が蘇ってしまう。
怪人オロボグの恐怖
オロボグは藻の塊のような人型の怪人。
物質の水分を吸収し、カラカラにさせる能力を持つ。
主演男優、プロデューサーがカラカラの犠牲になり、露伴もピンチに。
最初の物語もそうでしたが、露伴の「ヘブンズ・ドアー」の能力がどうも効きません。
ないがしろにされることの怨念で蘇ったオロボグは、ヘブンズ・ドアーによる改変ができない。改変をすることは「ないがしろにする」ことになるから。らしい。
オロボグの怨念の強さに「原作を忠実に再現する」ことの大事さを改めて確認した露伴。
最後はなんとか露伴が解決させます。
というドラマ化の過去の話をすると、編集者シノハラも映画化を断念することになった。という物語。
この話もめちゃ面白いです。
5LDK○○つき
最後の話「5LDK○○つき」は事故物件に露伴が招待される話。
もう冒頭から面白そうな雰囲気が漂っています。
建造物の写真家の住む事故物件に誘われる
露伴の知り合いに「タカシマレイスイ(高島冷水?)」という写真家がいる。
建築物の写真家で露伴もレイスイの撮影した写真を気に入っている。妙になまめかしくグロテスクな写真。そしてそこにはプロとしてのこだわりがあった。
ある日、レイスイから奇妙な家に住んでいるから遊びに来てほしい、と招待を受ける。
露伴はその家に行き、レイスイの話を聞いてみると、確かに奇妙すぎる家だった。
- 一軒家にも関わらず家賃が8千円程度
- 過去の住人は1年に1度の頻度で変わっている
- それも6月に決まって変わっていて、しかも住人は行方不明に
などなど、いわゆる「事故物件」だった。
さらにレイスイの話では、過去に女性の住人がいて遺書を残していなくなったらしい。
その遺書には「私は天国への扉を見つけた」と書かれていた。
天国への扉、つまりヘブンズ・ドアー。露伴も動揺を隠せなかった。
家に閉じ込められる二人
この家の奇妙なことは他にもあって、ドアや窓などの立て付けの木材に「栗の木」が使われていた。
栗の木は非常に頑丈な木材だが、細かい加工に向いていないので、一般的にまずドアや窓には使われない。
この栗の木のおかげで二人は家から出られなくなる。ここではその理由は省略します。
スタンドではない怪物が登場
一通り家を案内し終えた後に、レイスイが奇妙な怪物に顔を食べられていた。
この怪物は透き通っていてキラキラと輝く。人型ではあるが蛇腹があり、頭には顔はなくツノのようなものがある。
今回もヘブンズ・ドアーが効かない。
その怪物は虚像のように実態があるようでない。
透き通った体、蛇腹の怪物。物理的な感触もなさそうに見える。
レイスイにも見えているのでこれまたスタンドではない。
なんとか退治
どうやらその事故物件は、役割としては封じ込めるだけの役割で、中にいる人を逃がさないようにして襲い掛かるのが目的らしい。
露伴とレイスイはなんとか危機を脱出して怪物を退治。
後で調べてみると「虚像の妖怪」というのがいた。虚像を見せて魂を奪う妖怪。
日本の妖怪について過去を遡って調べてみると、蜃気楼を見せる「蜃」という妖怪や、「水竜」という妖怪がそれに近いらしい。
続編への布石を見せて終わる
最後は次の話につながるような終わり方。続編がありそうな匂いがぷんぷん漂っていました。
続編があるならぜひオーディブルで聴きたい。
まとめ
最初にも書きましたがオーディブル作品の中でも非常におすすめです。
ジョジョが好きな人限定になるかも知れませんが、物語も原作にありそうな話ばかりで、ナレーションもあってかなりいい。
ナレーションの人たちも楽しんで役を演じてそうなのが伝わってきて、聴いていて心がほっこりしました。
ちなみに、ジョジョの小説は第5部のフーゴというスタンド使いのスピンオフ作品だけ読んだことがあります。確か最初のノベライズ作品だったかと。僕はフーゴが大好きなのでハードカバーで購入して持っています。物語も面白かった。
「恥知らずのパープルヘイズ」
過去のノベライズやこれから出る小説も全部オーディブルで配信してほしいなー。
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