葉真中顕さんの小説「ロストケア」の感想と考察。Kindle Unlimitedで読みました。
2015年2月発刊。
日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
本のカバーを見ると実写映画になっているようです。
日本の介護問題の厳しさがリアルに刺さる内容でした。重いテーマですが、ミステリー仕立てで、とにかく面白かったです。
僕の親もいつ介護することになってもおかしくない年齢なので、色々と考えさせられました。
小説「ロストケア」は面白い?
小説「ロストケア」は面白いか、面白くないか、で言うと非常に面白い作品でした。
物語の登場人物は、ヘルパーとして働く斯波、高級介護施設で働く佐久間、佐久間の学生時代の同級生で検事の大友、42人もの老人を殺害する犯人。
この4人の視点で章が切り替わって、話が進んでいきます。犯人は「彼」という描写をしていて、犯人が誰かわからないようにしています。
介護保険の制度について。なかなかにえぐい制度。
小説内では、日本の総人口に対して65歳以上の高齢者は20%と書かれていました(この小説が10年近く前の作品なので、現在はもっと割合が増えているはず)。
2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療費や福祉にかかる費用が増え、現役で働いている世代はより負担が増えると言われています。
僕は全く知りませんでしたが、介護保険制度は2000年に始まって、2006年には法改正がされていることが小説内で書かれていました。介護保険は40歳から支払う義務がありますが、自分がその年代近くになってやっと介護保険という存在を知ったくらいです。
介護保険について引用します。
介護保険をいざ使うとなっても、ほとんど焼け石に水のような状態。「無いよりまし」くらいの制度だとか。
介護保険を使えば介護サービスを一割負担で利用できる、ということになっている。しかし実際には健康保険のように無限に使えるわけじゃない。枠が決まっていて必ずしも本人が必要な介護が受けられるとは限らない。
ロストケア
結局、充実した介護を受けるためには、介護保険の範囲を超えて、利用者が実費を負担しなきゃならない。
「残念ながら、介護保険は人助けのための制度じゃない。介護保険によって人は二種類に分けられた、助かる者と助からない者だ」
ロストケア
介護保険法の改正によって、介護事業は経営が厳しい状況に。社員の給料が下がった上に、長時間労働になった。
介護企業が大きな利益をあげるようになると、信じられないような制度改正が行われた。企業に支払われる介護報酬が引き下げられたのだ。
ロストケア
役人たちからすれば、利益が出ているということは余剰があるということで、予算の措置としては削除するのは当然かもしれない。しかし、福祉だろうがなんだろうが民間企業が商売としてやる以上、利益が出なければ回らない。
2006年の4月に行われた介護保険法の改正により、訪問系のサービスに対する報酬が引き下げられた。
ロストケア
〜 中略 〜
入社4年目の斯波の場合で、手取りの給与はおよそ18万円。普通免許とヘルパー二級という二つの資格を持った31歳の男性が、腰を痛めながらする長時間労働の対価としてはあまりに安い。
この小説で書かれているフィクションは、現実の問題になる可能性がかなり高い。
身体が不自由なのに頼れる家族がいない老人はきっと増えていきます。そういう人は収入や蓄えがなく福祉からも排除されて、生活が刑務所の環境を下回ってしまえば、犯罪を犯す動機付けになってしまいます。まずいですよね、もし刑務所が社会からはじかれたお年寄りの老人ホームみたいに機能しちゃったら。
ロストケア
「最近、格差なんて言葉をやたらと聞くが、この世で一番えげつない格差は老人の格差だ。特に、要介護状態になった老人の格差は冷酷だ。安全地帯の高級老人ホームで至れり尽くせりの生活をする老人がいる一方で、重すぎる介護の負担で家族を押しつぶす老人がいる。」
ロストケア
介護に疲れて、自分の生活もままならない。この物語では介護されている人が42人も殺されますが、殺してくれて感謝している人たちも多い。
介護の世界に身を置けば、誰でも実感する。この世には死が救いになるということは間違いなくある。
ロストケア
読めば読むほど暗い気持ちになります。
今後、高齢化社会による増税は免れない。現在の日本に住んでいて感じる経済的な閉塞感。様々なものが値上がりしているし、どうしたものか…。物価上昇、減収、増税、その上にさらに介護のことまで考えると憂鬱になりますって。
この小説自体は非常に読み応えがあって面白いのですが、フィクションとは到底思えず。かと言って、おそらくどうしようもできない…。
映画「ロストケア」について
本のカバーが実写映画らしきものになっているので、ロストケアの映画についてもちょこっとだけ調べてみました。
2023年3月に上映されたそうです。
松山ケンイチが斯波役、長澤まさみが大友役になっています。
原作の小説では大友(検事)はおじさんなので、映画用にストーリーも少しアレンジされてそうですね。
原作はかなり面白いですので、映画も期待できそうです。
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