金原ひとみさんの小説「ナチュラルボーンチキン」をオーディブルで聞きました。感想と解説を書きます。
オーディブル版は2024年5月配信開始。
オーディブルオリジナル作品かと思っていましたが、オーディブルファーストということで最初にオーディブル版が配信という形だったようです。
電子書籍版は2024年10月発行。
ナレーションは日笠陽子さん。淡々とした主人公の朗読が印象的でとてもいいナレーションでした。
僕が主人公とほぼ同じ年齢の中年なので非常に良い作品だと思いましたが、若い方はあまり共感できない内容かも知れません。
「ナチュラルボーンチキン」のあらすじ
ナチュラルボーンチキンのあらすじをネタバレしない程度に書きます。
出版社の労務課に勤務する主人公の浜野文乃(はまのあやの)。45歳独身。
毎日ほぼ同じ食事をして仕事から帰るとサブスクの動画を見る。そんなルーティーンをこなすだけの日々。心から楽しいと思える趣味もなく、友人もいない。
ある日、上司の命令で編集部の平木直理(ひらきなおり)の家に伺うことに。軽い捻挫で長い間有給休暇を取っていたため、仮病なのか様子を見てほしいということだった。
平木との出会いで主人公のパンドラの箱が開きかける。(開きかけ)
心を失ったロボットのような生活を淡々と送り、老後のことだけが気がかり、という主人公にとって平木の存在は異物すぎた。理解ができなかった。
平木は美人でホストクラブ通いを生きがいにしている。
人目なんて全く気にせず、楽観的で、お金が無くても、健康に悪くても、楽しめればそれでいいじゃないか、という考えを持っている。
パリピな雰囲気の平木と、感情を失った主人公。この二人の会話のやり取りがいちいち面白い。
その後、平木の友人であるバンドのボーカルと一緒に打ち上げをすることになり、この出会いが主人公の人生を変える。
みたいな話です。
ナチュラルボーンチキンというタイトルがずっと謎でしたが、読んでいるとそれとなく理解できました。
楽しいがわからない
主人公の浜野は平木と会話をしていく中で、「楽しいってなんだっけ?」「楽しいがゲシュタルト崩壊してわからない」と言っていて、この部分共感しました。
中年の独身特有のことなのかも知れませんが、突き抜けるように楽しいと思えることって本当にわからない。独身危険。
物語の中でもありましたが、芥川龍之介が言っていた「ぼんやりとした不安」。
主人公の「つまらなさを容認しながら生きる」という言葉も刺さる刺さる。
読む人を選ぶかも?最後はほんわか幸せになれる作品
中盤から終盤にかけてうまくいきすぎな気もしなくもないですが、フィクションの世界だしまあいいか。(嫉妬)
この作品は淡々としたナレーションの主人公が、心の中で面白いツッコミを入れるシーンがあってそのギャップが笑えます。
平木さんがハマってるホストの名前が鬼ヶ島キャツ(オーディブルで聞いたので漢字がわかりませんが)。キャツキャツ言うから彼奴(あいつという意味の)かと思ったら名前かい!ここも面白かった。
平木さんと主人公のキャラ対比もよく、多くの人は平木さんのような人生を送りたいと思うんじゃないでしょうか。
人目を気にせず、お金の心配も、健康の心配も、老後の心配だっていらない。そんな風に素で思えるなら、何をしても楽しいかもしれないなあ。
作品の説明では中年版の「君たちはどう生きるか」とありました。
「君たちはどう生きるか」を見たことがないけれど、なんとなく言いたいことはわかったような気がしました。多分。
独身中年の生きづらさを感じつつ、ユーモアがところどころに入っていていい作品でした。
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