伊坂幸太郎さんの小説「さよならジャバウォック」の感想・解説・考察。

2025年10月発刊。オーディブル版は2026年6月配信開始。
この小説は、デビュー25周年の書き下ろし長編ミステリー作品、とのこと。
伊坂幸太郎さんの作品を最初に読んだのは2008年くらいだったと思います。「ラッシュライフ」という小説を読んでとても感動して、それ以来エッセイや共著なども含めて著作全体の9割は読んでいます。簡単に言えばファンです。25周年めでたい!
この小説は、Audible(オーディブル)で聴きました。伊坂幸太郎さんの割と新しい作品を聴き放題で聴けて嬉しい限り。
オーディブルのナレーションは、天野宏郷さんと清水はる香さんの二人が担当。とても聞きやすいナレーションで物語に没頭できました。

人間の本能の話が興味深い物語でした。
小説「さよならジャバウォック」のあらすじと感想
小説「さよならジャバウォック」のあらすじと感想を書きます。ネタバレはしていません。
不思議の国のアリスに登場する「ジャバウォック」。混乱を意味する架空の怪物。あくまで今回登場する「ジャバウォック」の名前の由来なので、不思議の国のアリスの物語は全然関係ありません。
ジャバウォックに取り憑かれた人間は、理性を失って暴れ出す。
ジャバウォックを長年研究し続けた人たちが、ジャバウォックを解除する方法を発見。ジャバウォックに取り憑かれた人を解放していく、という物語です。
主人公の量子(りょうこ)は意図せず夫を殺害してしまい、物語を通して最初から最後まで、ほぼパニック状態。
大学時代のサークルの後輩である桂凍朗(かつら こごろう)との再会から、事件に巻き込まれていきます。
ジャバウォックを取り除ける二人の若い夫婦の助けによって、パニック状態から落ち着きを取り戻す量子。
量子の物語とは別に、もう一つ物語が進行します。
ミュージシャンを引退した伊藤北斎のマネージャーである斗真(とうま)の物語。
北斎の歌がジャバウォックに効果的ということで、途中から二つの物語が重なって、物語が盛り上がっていきます。
伊坂幸太郎さんの小説を読んでいて気づいたんですが、「音楽」が手助けのアイテムになることが多いですね。よほど音楽が好きなんだと思います。
この小説では残忍なジャバウォックの話とは別に、人間の「理性と本能」がテーマになっていると感じました。
終盤に壮大なトリックもあるので、最後まで楽しめる作品です。
小説「さよならジャバウォック」の登場人物
小説「さよならジャバウォック」の登場人物を書きます。メインの登場人物は少ないので、覚えやすくて助かりました。
- 佐藤量子…主人公。30代半ば。旧姓は宮田。様々なことが一気に起き、物語を通してほぼパニック状態。
- 佐藤翔…量子の息子。幼稚園に通う。
- 量子の夫…36歳。外泊をするようになる。プライドが高く、量子に言葉の暴力を振るっていた。
- 量子の母…70歳。早期発見ではあるが肺がんを患う。
- 桂凍朗(かつら こごろう)…量子の大学時代の後輩。子供を喜ばせるためにジャグリングや手品のサークルに入った。アメフトをしていてガタイがいい。喜怒哀楽が乏しい。実家は資産家。
- 絵馬(えま)…20代。児童養護施設「キャンバス」出身。愛想がなく感情に乏しい。
- 破魔矢(はまや)…20代。児童養護施設「キャンバス」出身。タメ口でよく喋る。
- 斗真(とうま)…45歳独身。伊藤北斎のマネージャー。北斎のファンで一時は強烈なアンチでもあった。
- 伊藤北斎…60代。若い頃に人気を博したミュージシャン。35歳で引退した。
- 伊藤穂乃果…北斎の妻。5年前に癌で亡くなる。
- 歌子…北斎の娘。30歳。結婚して北海道にいたが、離婚して北斎と住む。離婚して半年後、交通事故で人が死ぬのを目の当たりにして、精神疾患になる。
- 燕…量子と同じマンションに住んでいた小学生の女の子。祖母と暮らしていて、量子は学校の送り迎えをしてあげていた。天狗や河童、ダルマのイラスト付きの手紙を量子に書く。
- ルーシー夫妻…慈善家で研究施設の資金援助をする。支配欲が強い、という噂も。
- 天狗…桂凍朗の子分的存在。身長2メートルの大男。
- 田中徹…日本のプロバスケットボール選手。キャプテン。過酷な過去の人生体験を持つ。
小説「さよならジャバウォック」の良かったところ
桂凍朗の研究やエピソードが面白かった
スポーツは疑似戦争
スポーツは攻撃性を発散できる人類の発明。この言葉が印象的でした。
スポーツの世界大会を見ていると、代理戦争のような様相を呈している場面を見かけます。負ければ、まるで国を貶めたかと言わんばかりの大バッシング。
テストステロンについて
桂凍朗は研究所でテストステロンの研究をしています。テストステロンは人をファイターにする。テストステロンは理性より上位にあるホルモン。
桂凍朗は、悪魔祓いのようにテストステロンを悪者にできればいいと考えていた。人間の本来の姿は、暴力的なものではないと信じたかった。
この研究はジャバウォックの研究にも関連がありそうです。
「インディアスの破壊についての簡潔な報告」
「インディアスの破壊についての簡潔な報告」は、大航海時代のスペインの大虐殺について書かれた告発書。侵略、虐殺、拷問などが書かれていてエグい内容。
これを読んだ桂凍朗はショックを受けます。
人は味方には親切だが、敵には残忍。人に埋め込まれたプログラムなのかも?
どんな親切な人でも立場が違えば、残酷にもなれる。
ここでも桂凍朗は、人間の本性だと信じたくはないので、テストステロンやジャバウォックのせいにしたかった。
暴力と親切
暴力と親切が人を進化させてきた。
カントいわく、基本的に人はイライラしている。平和は努力で保っているがかなり弱い。感動と怒りは似ていて、紙一重。
人間は元々争い事が好きな動物である、ということを信じたくないから、桂凍朗は研究をしていたのかも知れません。
僕の親は隣家とですら、割と争っているんですが、身近でもそんな感じなので、隣同士というだけで争ってしまうものなんだと思っています。
自分の陣地に対しては愛があるけれど、他の地域には敵対心が強く、あわよくば占領する。
人間の歴史は「侵略の歴史」と言う言葉も、それなりに納得感があります。
ジャバウォックについて
ジャバウォックは脳に取り憑く目に見えない物質。取り憑かれても核になる部分は不明。脳のリミッターが解除され、力が強くなり、痛みにも鈍感になる。
死ぬまで取り憑くが、ジャバウォックに死んだと思わせれば、近くにいる人に寄生先を変えます。
取り憑かれると老化を防止し長生きする。ただ、危険なことに鈍感になるので事故をしたり死にやすい。
ジャバウォックには一定の音楽が効果的。動きを止めることができる。
亀に取り憑かせる
ジャバウォックの習性から、桂凍朗たちはリクガメを利用します。
ジャバウォックをリクガメに寄生させ、リクガメを運びながら、他の人間に寄生させます。
亀は万年生きるので保存しやすく、持ち運びもできてちょうどいいらしい。
トキソプラズマの話
ジャバウォックの説明で、トキソプラズマの話が興味深かったです。
トキソプラズマは猫に寄生する寄生虫。人間にも寄生するらしく、寄生されると死を恐れなくなる(傾向として)。交通事故に遭う確率が上がるらしい。
脳を支配される。警戒心が弱くなるという点で、ジャバウォックに似ています。
ジャバウォックに効く音楽
ジャバウォックに効果的な音楽、それは昔の音楽で、北斎も好きな音楽だった。
カモンカモンという歌詞、消防ベルの音が入る、という曲なので、ビートルズの曲だと思っていましたが、もしかすると違うかも知れません。特に歌詞の引用もないので、JASRACのCマークの記載もなかったと想像します。オーディブルで聴いているので、そのあたりわからず。
伊坂幸太郎さんの小説にはビートルズの曲がよく出てくるので、その先入観もあって、最初からビートルズの曲だと勝手に決めつけているので、他には何も思い浮かばず 笑。そもそも架空の曲ということもあり得ますしね。
量子の母の言葉
量子の母の言葉がよかった。
「困っている人を助けるのは健康にいい。」
伊藤北斎の言葉
伊藤北斎の言葉もちょっと好き。
桂凍朗からバスケットのワールドカップの曲の依頼を受けたものの、迷う北斎。
その理由は桂凍朗が真面目すぎたから。
「真面目すぎると他人を巻き込むから危険」という言葉が印象的でした。
結局、最後には北斎は曲を作ることを引き受けます。
まとめ
伊坂幸太郎さんの小説は終盤に大きな展開があって、感動して終わることが多いですが(他の人の小説もそのパターンが多いですかね)、この小説でも大きなトリックがあって最後は感動して涙しました。
物語序盤から、スピーディー且つ混乱の続く展開で、一気に物語に引き込まれました。
もう少し注意深く思考していれば、終盤のトリックに気付けたかもしれませんが、まあ気づかない方が感動も大きいので良かったです。
近年の伊坂さんの小説の中でも、個人的におすすめの一冊です。
この小説はAudible(オーディブル)の聴き放題で聴けます。最初の30日は無料でお試しができるのでぜひ。伊坂さんの他の小説も複数聴き放題で聴けるのでおすすめです。



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