森博嗣さんの長編小説「詩的私的ジャック」の感想・解説・考察を書きます。
1999年11月発刊。オーディブル版は2022年8月から配信開始。
この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。
20年くらい前に一度文庫本で読んでいましたが、さすがにほとんど内容を覚えておらず新鮮な気持ちで聴けました。
この作品は大学助教授の犀川と西之園萌絵のミステリーシリーズ(S&Mシリーズ)の4作目となります。
今作では犀川と萌絵の距離がまた少し縮まってきました
小説「詩的私的ジャック」の登場人物と簡単なあらすじ
前作と同じくN大学工学部の助教授 犀川創平と生徒の西之園萌絵の二人が事件に巻き込まれます。
今作では萌絵が大学3年生に。1作目では18歳でしたが物語の中でも着実に時間が経過しているようです。
※謎解きの種明かしはしていませんが、物語のあらすじを結構書いているのでネタバレになると思います。これから読もうと考えている方はご注意ください。
主な登場人物
- 結城稔(ゆうきみのる)…N大学工学部の学生。4年生だが現在はミュージシャン活動に忙しくほぼ休校状態。大学生としては8年目になる。過去に犀川の授業も受けていた。
- 篠崎敏治(しのざきとしはる)…結城稔の友人でマネージャー。稔の楽曲の作詞も担当している。ミステリー研究会に所属している関係で萌絵とも顔見知り。頭脳明晰。
- 結城寛(ゆうきひろし)…結城稔の兄。博士課程の大学院生。
- 杉東千佳(すぎとうちか)…結城寛の妻。S女子大で助手をしている。美人。
- 牧野洋子…萌絵の同級生で友人。課題の製図を一緒に取り組んでいる。
- 金子勇二…萌絵の同級生。牧野に不良呼ばわりされている。
歌詞通りに行われる?密室殺人
この物語では3つの密室殺人事件が起きる。被害者は全員女性で下着姿、体には切り傷という共通点があった。
N大の生徒でありミュージシャンの結城稔が歌う「詩的詩的ジャック」という曲に、萌絵は密室殺人を暗示する詩を発見し事件の真相を探っていく。
ものすごく簡単に言うとこんな物語です。
曲名に切り裂きジャックの意味も含ませてるっぽい?
犀川は他の大学でも評価が高い
今作の一番のポイントは犀川が他の大学でも評価が高く、そのことに萌絵が気づくことでしょうか。
犀川はN大学の助教授だが今作ではS女子大の臨時講義もしている。
S女子大の助手である杉東千佳からは尊敬されているっぽい。ちなみにこのS女子大で一つ目の事件が起きます。
また、犀川はT大という名門の私立大学(古いだけという噂もあり)からも何度も引き抜きにあっていた。このT大で二つ目の事件が。
T大には藤井助教授がいてこの方はセメントのスペシャリスト。犀川が建築学を教えているのでセメントにも詳しくお互いに知り合いでもある。(今回の事件はセメントがキーになってます)
犀川はT大の引き抜きにはやんわりと断っているらしい。(教授への栄転の話もあった)
萌絵の焦り
萌絵は杉東や藤井助教授と話をしていく中で、N大以外の人たちから見た犀川の評価を知ることになる。
子供の頃から犀川が当たり前のように萌絵の面倒を見てくれていたけれど、それが当然だと勘違いしていた。
そもそも萌絵は犀川の論文すら一つも読んだことがなかった。
自分の甘えと、一人置いていかれるような感覚とが合わさって、とにかく焦る。
慌てて犀川の助手をしている国枝桃子の研究室に犀川の論文を借りに行く。
そもそも萌絵が国枝ときちんと喋ったのはこれが初めてで、国枝の研究室に入ったのも初めてというのもすごい。
萌絵がメインで事件の謎を追っていく
今回は犀川が中国へ出張していて、終盤まで登場シーンは少ない。
萌絵が事件の謎を追っていくんですが、毎度のことながら踏み込みすぎて自らの身を危険に晒してしまい、犀川が助けに行くといういつもの展開に。
個人的なハイライト
結城稔が犀川の授業を受けて印象に残っていたこと
ミュージシャンの結城稔は過去に犀川の講義を受講していた。
「人間だけが非生産的なものに価値を見い出す」という犀川の言葉が印象的だったらしい。
結城稔にこの言葉が刺さったのは音楽もきっと「非生産的」なものに分類されると思っていたからかも。
萌絵の飼っている犬が可愛い
萌絵の家には「トーマ」というシェトランドシープドッグがいます。トーマは寝るときは必ず「仰向けに寝る」らしい。想像するだけで可愛い。
ちなみに、著者の森博嗣さんが飼っていた犬も同じ名前だったような記憶があるんですが、どうだったかなー。いずれにしても飼っている犬種は同じだったと思います。エッセイでも写真付きて割とよく登場しています。
犀川と萌絵の距離が近くなる?
お酒に酔った萌絵は犀川に唐突な求婚をする。
犀川からのキスのプレゼント?のようなシーンもあり、今までにない距離感に!?
「趣味と仕事の違い」とは?
他の作品でもよく登場する喜多助教授が今作でもちょっとだけ登場。犀川と学生時代からの友人。
「趣味と仕事の違い」について議論を交わす3人。
- 喜多…研究はビジネス。客を相手にする。仕事は好きも嫌いもない
- 萌絵…お金が発生するかどうかの違い
- 犀川…両方とも同じ
ちなみに犀川は「出世するほど無能になる」と言っていた。
今作では天才が登場せず
1作目では天才科学者、3作目では数学の天才博士が登場しました。
犀川と萌絵も天才で、この天才同士のバトルがシリーズの見どころです。
ですが、今回の4作目では敵対する天才は登場せず、その点は少し残念な部分ではありました。
まとめ
ミステリー小説なので謎解きが重要ですが、僕があまり興味がないので(というか頭の悪さもあって理解できないことが多いので)省略しています。
少しずつ登場人物にも変化があってシリーズ作品として着実に物語が進んでいます。
萌絵が大学の3年になり進路を決めるシーンも見どころ。
続編もオーディブルで聴いていく予定です。
シリーズ1作目の感想↓
シリーズ2作目↓
シリーズ3作目↓
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