森博嗣さんの長編ミステリー小説「数奇にして模型」の感想・考察・解説。
1998年7月発行。
この小説はAudible(オーディブル)で聴きました。
オーディブルの朗読は池添朋文さん。毎度、高いクオリティのナレーションで実家に帰ったような安心感があります。
N大学工学部の助教授、犀川創平と生徒の西之園萌絵が主人公の理系ミステリーシリーズ。
とうとうシリーズの9つ目まで読み終えました。(聴き終えました)
今作もやっぱり面白い。
特に萌絵の従兄妹で犀川の高校時代の友人、大御坊安朋(だいごぼう やすとも)の存在が今作の面白さを引き立てています。

今作では新たな人間関係が判明したり、犀川と萌絵が今までにないくらいにピンチになったり、見どころが多め!
小説「数奇にして模型」のあらすじ
小説「数奇にして模型」のあらすじを書きます。ネタバレはしていません。
犀川たちが所属するN大学から近くにあるM工業大学で起こる事件と、公会堂(模型展示交換会が開催された)で起こる、2つの密室殺人事件。
公会堂の遺体は首がない状態で見つかる。
タイトルの通り、模型をモチーフにしたミステリー作品です。
公会堂でたまたま殺人現場に遭遇した萌絵は、「異常と正常の違い」「個体と集合の違い」「首が無くなったらその人ではなくなるのか?それとも首も胴体もその人で、2つになるのか?」などの疑問について、深く思考します。
天才モデラーの筒見紀世都(つつみ きよと)、従兄弟で模型マニアとしても有名な大御坊安朋(だいごぼう やすとも)、萌絵の大学の友人の金子勇二、鮮烈なキャラクターたちの登場と、いつもいる仲間の新しい発見が面白い作品でした。
僕は相変わらず犯人が全然わからず、分かった時にはかなり驚きました。ミステリー要素も強く楽しめます。
萌絵が犯人に近づきすぎて危険な目に遭い、犀川が助けに行く、という構図はお決まりのパターンですが、今作は二人とも物理的に痛い目に遭います。
ここまで二人がピンチだったのはシリーズ9作目にして初かもしれません。
小説「数奇にして模型」の登場人物
小説「数奇にして模型」の登場人物を一応、書いておきます。
N大学に関わる人たち
- 犀川創平…国立N大学工学部の助教授。からし色の車に乗る。
- 西之園萌絵…N大学工学部4年生。22歳。白いポルシェに乗る。
- 国枝桃子…N大学工学部の助手。31歳。長身でボーイッシュな服装。結婚して2年が経過。
- 牧野洋子…N大学工学部4年生。萌絵の親友。シリーズ通してほぼレギュラー。
- 金子勇二…N大学工学部4年生。萌絵のことをお嬢さんと呼ぶ。
- 反町愛…N大学工学部4年生。萌絵と高校時代からの友人。弓道部の主将。
- 喜多北斗…N大学工学部の助教授。イケメンで犀川とは学生時代からの友人。
- 儀同世津子…雑誌記者。犀川創平の妹。28歳。双子を出産。
- 曾我芽衣子…国立N大学医務室の医師。サバサバしていて、犀川に当たりが厳しい。40代くらい。
模型に関わる人たち
- 大御坊安朋…萌絵の従兄妹で子供の頃によく遊んであげていた。犀川や喜多とは私立の男子校で同級生。オカマ。作家兼クリエイター。萌絵いわく、親族でも頭が飛び抜けて良い。
- 河嶋慎也…M工業大学の助教授。スマイリー川嶋と呼ばれる。36歳。
- 寺林高司…M工業大学の社会人大学院生。研究所に勤務で4月から社会人大学生に。模型作りが趣味。33歳独身。地球防衛軍に所属。
- 上倉裕子…M工業大学の大学院生。
- 井上雅美…銀行員で裕子の友人。23歳。
- 武蔵川純…フィギュアモデルマニア。40過ぎ。地球防衛軍に所属。
- 筒見明日香…21歳。フリーのモデル。
- 筒見紀世都…29歳。天才モデラー。中世的な美男子。
警察の人たち
- 三浦…愛知県警の警部主任。40歳。頭がキレる。威圧感がすごい。
- 鵜飼大輔…愛知県警の警部補。熊のような大柄な体格。萌絵に惚れている。
- 近藤健…愛知県警の警部補。20代。長身で縁なしのメガネ。丸い顔。萌絵いわく「水栽培のヒヤシンスくらいの貫禄しかない」
小説「数奇にして模型」で面白かったところ
章が一週間(7つの章)で区切られているため、物語が凝縮
今作は7日(一週間)で章が分かれています。1日が1章なので、とにかく忙しい。
この章分けの為、毎日いろいろなことが起こり濃密な毎日。この1日の濃密さはシリーズでも随一。
大御坊安朋がこの物語の顔
萌絵の従兄妹で、犀川の高校時代の同級生である大御坊安朋(だいごぼう やすとも)。
変わった苗字なので調べてみると、実在しない苗字のようです。
この大御坊はいわゆるオカマキャラですが、頭がかなり良い人物で、萌絵ですら言いくるめられる一幕もあります。
今回の物語は、大御坊がいなかったら面白さが半減以下になるだろう、と思うくらいに、キャラが立っています。
がっちりした体型で頭髪は薄め。奇抜なファッションを好み、犀川から見た第一印象は「アンドロメダカウボーイ」「男装の麗人」「歩くネオンサイン」 らしい。
実は高校生時代はこんなにピカピカな人物ではなかったので、そのことを知っている犀川だけに、高校生以来に会って、その変貌ぶりに驚きます。
ちなみに大御坊は同級生の喜多北斗とも親友。
犀川と大御坊と喜多、もうこの3人の会話だけで面白い。
初めて携帯電話が登場?
今作で、萌絵は携帯電話を持っていて、頻繁に登場します。
おそらく、シリーズを通して初めて登場するのでは?
この小説が出版された1998年当時のことを考えると、PHS(070で始まる番号)が急速に普及していた頃です。携帯電話はまだ少なめ。(090で始まる番号)
僕自身、この頃にポケットベルからPHSに変更した記憶があります。
携帯電話に関しては、1年違うだけで進化や普及率が大きく変わっていた時代でした。
これが1997年の作品ならまだ携帯は登場しないだろう、という感じの時代で、読んでいて懐かしさを感じました。
萌絵がコスプレをする
今作では萌絵がアニメオタク(フィギュアオタク?)たちの模型展示会で、戦隊モノの女性ヒーローのような(宇宙っぽさもある)コスチュームを着る羽目になります。そして、中盤からは本物の看護師の服を着るシーンも。
この作品がドラマやアニメ化されていれば、割と大きなトピックになっていたかも知れませんが、小説だとちょっとインパクトにかけるかも知れません。
ただコスプレをした、というだけの話ですが。
作っている時が楽しく、所有感がある
大御坊は作家で模型マニア。模型の世界では有名な人物らしい。儀同世津子から雑誌のインタビューを受けます。
「模型は作っている最中だけに所有感がある、愛の行為。完成してしまったら少し冷める。それは小説も同じ。作る行為そのものに価値があり、出来た作品は排泄物に近い。もちろんプロなので、排泄物に見えないように細工をする。」
というセリフが印象的でした。
萌絵は大御坊の小説を全て読んでいたが、純愛の小説ばかりらしい。それはそれでなんかすごい。
萌絵はどうして毎回事件に首を突っ込むのか?
大学のミステリー研究会にも所属する萌絵だが、どうして毎回事件に首を突っ込むのか。
今作ではその理由が描かれていました。
事件の謎を解くことが好きという理由もあるが、犀川の思考に触れたいから、という理由が一番大きいらしい。
犀川も謎について考えるが、毎度自分よりもさらに上の答えに行き着く。その驚きと、深い思考に触れたい。簡単に言えば、犀川のことが好き、ということなのかな。
犀川が珍しく、長考する
先ほどの話と繋がりますが、今作では犀川が事件のことでかなり長考します。いつもなら事件の話の途中で答えが見つかるくらい、洞察力が鋭い犀川ですが、今回は違う。
一緒に萌絵と歩いて話をしているにも関わらず、全然話を聞いていない。あろうことか横断歩道の真ん中で突っ立ったままになり、怪我をします。
会議や授業もどこか上の空。
それほどに今回の事件は「普通ではない」ということだったようです。
金子勇二の活躍
大学の同級生で萌絵と同じ研究室の金子勇二。シリーズの序盤から時々登場していて、萌絵を2度助けたことがありました。
萌絵のことを「お嬢さん」と呼び、面倒見のいい兄のような雰囲気があります。
ぶっきらぼうで、普通に口喧嘩もするような間柄。この点、他の同級生の男子生徒とはちょっと違います。
今作では金子の過去の話があり、萌絵との共通点も発覚。
そして終盤の校舎の屋上での告白(?)も見どころです。
模型を趣味にするのはなぜ男性が多いのか?
模型を趣味にするのはなぜ男性が多いのか?について書かれていました。
模型は本物が手に入るまでの代用品。男子は子供の頃の趣味を大人になっても続ける。
女子は大人になっても人形遊びはしない。女子の遊びは大人になるとリアルになるから(料理や家庭のことなど)らしい。
個人的にはプラモデルとか模型にハマったことはないですが、絵を描く(漫画みたいなイラスト)のが好きだった子供の頃に比べて、今は絵を描いているかと言うと、全然描いてないなあ。
単純におじさんになって疲れているからかもしれません。
まとめ
今作はとにかく長い物語で、文庫本でも結構分厚かった記憶があります。(700ページ以上あったような)
その為、上に書いた以外にも結構気になった箇所がいくつかありました。
萌絵が序盤からずっと考えていた「正常と異常」「個性と没個性」「簡単なものと、複雑なもの」。これが大きな伏線となっています。
模型をモチーフにした物語ですが、これも伏線の一つで、「型」が重要なテーマになっています。
ここ数年注目されている「多様性」の話にも通ずるような話で、とても面白い一冊でした。
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