森博嗣さんの長編ミステリー小説「今はもうない」の感想・考察・解説。
この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。
オーディブルの朗読はもちろん池添朋文さん(このシリーズは全て池添さんが担当されています)。クオリティの高さが毎度、本当にヤバイです。今作では関西弁の刑事が登場しますが、関西弁もすごかった。
S&Mシリーズ(犀川&萌絵)の第8作目。
このシリーズは随分昔に文庫本を所有していて全て1度読み終わっているんですが、オーディブルを契約してからは再度読み直しています。とうとう8作目まで来てしまいました。
今回もめちゃくちゃ面白い。シリーズの中で一番好きかも。今のところ「すべてがFになる」か今作の「今はもうない」のどちらか、という感じです。
ミステリー小説なので、ネタバレしてしまうと面白くないのは前提ですが、それにしてもこの作品はかなり慎重な取り扱いが必要な内容になっています。
ということで、この記事では物語の面白かったところを書きつつ、ネタバレはしていません。

小説の副題「SWITCH BACK」とカバーイラストのパラソル。これもまた味わいがあっていい。
小説「今はもうない」のあらすじと感想
物語の始まりは西之園萌絵が運転する車中での会話シーンから。
犀川助教授と二人で萌絵の別荘に向かう。
二人の年齢が作中に書かれていますが、そこから推測すると前作からほとんど時間は経過していないようです。
萌絵の別荘の隣家で殺人事件(密室殺人)が過去にあり、その話を犀川にします。萌絵も関わりがあったらしい。
今作はこの密室殺人の話がメインで、時々、萌絵と犀川の物語が間に入る構成になっています。
犀川と萌絵のシリーズでは珍しく、一人称が笹木という人物になっています。(犀川と萌絵の会話シーン以外)
森の中の神秘的な出会い
橋爪というファンションデザイナーの別荘に呼ばれていた笹木。
笹木のフィアンセが橋爪と知り合いということで呼ばれたが、少々居心地が悪かった。
気分転換に別荘の近くにある山の中の廃線を散歩する。
山中の川で若い女性に出会い、話をする。
どうやら自身の別荘から飛び出してきて、迷ったらしい。
その女性は22歳で西之園と名乗った。
まさか、こんな人のいない場所で、こんな美人と会うとは思っていなかった笹木。
この時点でかなり笹木は西之園に惚れています。天使が現れたのではないか?と疑うほどのインパクトだった。
笹木の言動や行動は、今までの犀川と萌絵のシリーズにいなかったタイプ。笹木に嫌悪感が…。
というよりは、萌絵になんてことするんだ!?という、個人的な怒りがそうさせるのかも 笑。
このシリーズは萌絵が魅力の一つでもあるので、全体的に笹木の行動にコンチクショーという気持ちはあります。
二つの密室殺人
台風が来ているらしく、大雨になり、二人はひとまず橋爪の別荘に帰ることに。
別荘には笹木のフィアンセ、別荘の主人の橋爪、橋爪の息子、その友達の女性3人、使用人の合計9人がいた。
西之園は一晩泊まらせてもらうことになったが、深夜に殺人事件が起こる。
2つの密室で起こった、2人の殺人。
ここでいつものミステリー好きが発動。様々な行動を起こします。
4つの仮説
台風で電話も通じず、土砂崩れの可能性もあり車も出せない。
そんな中、笹木と西之園は残り7人に話を聞き、様々な仮説を立てる。
翌日、刑事も駆けつける。
刑事の仮説も含めて4つの仮説を吟味したが、終盤まで密室の謎は解けず。
全然関係ないですが、電話も通じない、外も出れないという夜の別荘。9人の中に犯人がいるかもしれないという危険はあるものの、このシチュエーションは現実ではなかなか体験できません。想像するだけでワクワクしてしまいました。
終盤の展開
笹木と西之園の二人の関係も色々ありつつ、終盤に大きな展開があります。
そして、え?こんな人物いたっけな?というあたりで個人的には謎が解けました。
犀川と萌絵が別荘に行くシーンも非常に良いので、このシーンも見どころです。
このシリーズはページ数が多く物語が長いのが特徴ですが、終盤の展開が重要です。ぜひ最後まで読んでみてください。
小説「今はもうない」の登場人物
オーディブルで聴いているので、名前の漢字がわからず。カタカナ表記している部分もありますので、その点ご了承ください。
- 犀川(さいかわ)助教授…N大工学部建築学科助教授。35歳。天才的な頭脳を持つ。
- 西之園萌絵…N大工学部建築学科4年生。頭の回転が速い。
- 諏訪野…西之園家の使用人。
- 佐々木睦子…愛知県知事夫人。旦那は西之園萌絵の父の妹。若い頃は萌絵に似ていたらしい。
別荘の人々
- 笹木…本編の主人公。公務員の40歳。瞬発的な思考は苦手だが、じっくり考えるのは得意。
- 橋爪レイジ…40歳。著名なファッションデザイナー。別荘の主人。妻を10年前に亡くしている。
- 橋爪セイタロウ…レイジの息子。美男子。医学部の大学生。
- 石野真梨子…笹木のフィアンセ。
- 神谷美鈴…モデル。人形のような美しさ。口数が少ない。
- 朝味ユキコ…姉。女優。セイタロウの友人。
- 朝味ヤスコ…妹。セイタロウの友人。
- 滝本…別荘の高齢の使用人。無口。
警察の人々
- コバヤカワ…真面目な刑事。愛想は良くなく、視線が鋭い。
- コミヤマ…指揮担当の刑事。関西弁でよく喋る。かなり有能な刑事。
小説「今はもうない」で良かったところ
ネタバレをあまりしたくない作品なので、物語全体のイメージ的なことと、トリックについて少しだけ書きます。
犀川と萌絵の距離がまた縮まった?
犀川と萌絵が二人でドライブをして別荘に行く。
二人の会話の様子から、かなり距離が縮まっている感じがします。3つ前の作品では犀川が激怒して関係が振り出しに戻った感じでしたが、また少しずつ距離が縮まっていて、今回もかなり仲良しになっています。
二人の関係性がこのシリーズの一つの見どころですが、この点も要チェックです。
なお、「恋愛」が今作の重要ワードだったりもします。恋愛物語はやっぱり魅力がありますね。
シリーズ作品、というのが壮大なトリック
前作と前々作は奇数章と偶数章だけで並行に物語が展開されるという、斬新な手法を使っていました。
この2作品を読んだ時に「シリーズ作品にしかできない方法なので、頭良すぎ!」と驚きました。
実は今作もシリーズ作品でしか表現できない手法を取っています。
ですので、いきなり今作「今はもうない」を読んでもその良さは半減以下、そもそも意味がわからない可能性が高いです。
初見の方は以前の作品を読むことをお勧めします。できれば全部読んでいるのがベストですが、このブログで過去の作品の感想をネタバレ無しで書いているので、チェックしてからでも良いかも知れません。
シリーズ作品だからできる壮大なトリック。すごい。
物語に情緒があっていい
今作の物語はタイトルも含めてどこかノスタルジーを感じる内容になっています。
今はもうない別荘近くに住む老人。
誰にも迷惑をかけずひっそりと人生を終えると老人は言う。
その話を聞いて、自身もそんな人生の終末になるのではないかと感じる犀川。
別荘の近くに今もある廃線の風景。
スイッチバックという副題も最高の余韻。
まとめ
今作は犀川と萌絵のシリーズらしくない作品になっています。
まず、犀川がかなり脇役。
そして、いつも登場する面々が登場しません。(国枝桃子、浜中、牧野、三浦警部、鵜飼警部、トーマ、などなど)
そういう意味で、イマイチな感想を持つ方も多いかも。
今回の2つの密室に関しては自分でも色々と考えました。結局、全然答えが思いつきませんでしたが…。
個人的に謎解き要素は本の評価にほぼ関係なくて、全体的な物語の雰囲気、読んだ後の余韻を重視しています。
そういう意味で、この作品はシリーズの中でもトップクラスで好きです。
それにしても終盤の展開には驚きました。
シリーズが残り2作品となり寂しいですが、また読み次第、感想を書きます。
Audible(オーディブル)ではシリーズ作品全てが聴けるのでチェックしてみてください。










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