三浦しをんさんの小説「墨のゆらめき」の感想と解説を書きます。
この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。
オーディブルファーストということで最初にオーディブルで配信が開始されて、その後書籍になったようです。
2023年5月発刊。オーディブル版は2022年11月配信開始。
タイトルからなんとなくわかりますが書の達人が登場する話です。一応僕も書の仕事をしているので(クオリティは違えど)書に向き合う姿勢が参考になりました。(フィクションではありますが)
小説「墨のゆらめき」のあらすじ
ネタバレしない範囲であらすじをご紹介します。
老舗のホテルに勤務するホテルマン続(つづき)。15年勤務している。
続は非常に真面目な性格で人に道を尋ねられることが多い。ぱっと見て人の良さが出ているらしい。
勤務する三日月ホテルは大きな規模のホテルではないが、昔からの顧客も多く長く愛されている。
※オーディブルで聴いたので全体的に漢字が間違っている可能性あります
ある日、昔からよく利用してくれていた会社の社長が亡くなったという知らせを受ける。(会社は豆腐屋から始めて化粧品開発をして大きな財を得た)
その会社の依頼で三日月ホテルで送別会を開くことになる。社長は人柄が良いのが有名で送別会にもかなりの人が来るらしい。
送別会の招待状を送るために、宛名書きを筆耕士に頼むことになる。筆耕士(ひっこうし)なんて職業があることを知らなかった ^^;
社長の親族は数ある筆耕士の文字サンプルから、遠田薫(とおだかおる)の文字を選んだ。
続はさっそく遠田に宛名書きを依頼するが、そっけないメールが返信され、遠田の家に足を運ぶことに。
遠田は筆耕士として仕事をしながら書道教室もしている。
ぶっきらぼうな書の達人遠田と、真面目なホテルマン続の奇妙な二人の物語が展開されます。
書道教室に通う小学生やOLの悩みを書を通して解決する2人。
話はほのぼのと続いていくのかな?と思いきや、途中から話がシリアスに。
タイトル含めて伏線があります。こんなほのぼのした話に伏線が張ってあるとは思わんかった。
いい話すぎて物語を聴きながら泣きそうになりました。(泣いてはないけど)
「墨のゆらめき」オーディブル版
墨のゆらめきのオーディブル版は、ナレーションを櫻井孝宏さんが担当しています。
櫻井さんと言えばかっこいい声で有名な声優さんですが、ベテランなのでナレーションがやっぱりうまい。
物語に没頭できるいいナレーションでした。
「墨のゆらめき」の気になったところ
書に向き合う姿勢
この作品では遠田が変幻自在の書を描くところが魅力の一つです。
書に対してだけは真面目で、常に字を書いている姿が印象的でした。
僕も一応手書き文字を仕事の一部にしているので、やっぱり日々の鍛錬が重要だよなあと改めて思いました。
画仙紙
遠田が清書をする際に使う紙に「がせんし」なるものが登場します。
聞いたことがなかったので調べてみると「画仙紙」という紙があるようです。
筆、紙、墨。書に使う道具もいいものを使うとやっぱり仕上がりが違うんでしょうね。
パンダは宇宙人?
書道教室に通うOLの悩みを聞く二人。
主人公の続が考える物語を遠田が書にしたためるシーンがあります。
そこでパンダの話が出てきて面白かった。
- パンダは成長が遅い
- 年間2日しか生殖期間がない
などなど他にもパンダの生態が興味深かった。
最終的にパンダは宇宙人という続のデタラメな話を手紙に書いていたのがよかった。
まとめ
著者の三浦しをんさんの作品は「舟を編む」「風が強く吹いている」の2作を読んだことがあります。
「舟を編む」は辞書を作る人たちの話で、「風が強く吹いている」は駅伝の話。辞書や駅伝どちらにも真摯に向きに向き合う姿勢が美しい作品で、今回読んだ「墨のゆらめき」も書に対する想いが良かった。
三浦しをんさんの真骨頂(勝手にそう解釈しているだけですが)である「背筋がピンとなるような正しさ」がこの墨のゆらめきでも感じることができました。
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