氷室冴子さんの小説「海がきこえる」の感想と考察。
この小説は1990年〜1992年に月刊アニメージュで連載されて、後で単行本として出版されたそうです。
僕が読んだのは1999年6月に刊行された徳間文庫の新装版(2022年7月発刊)。
本のサブスクKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)で読みました。
ジブリ映画の「海がきこえる」が大好きで、原作がKindle Unlimitedに登録されていたので読んでみました。めちゃ青春してる。
小説「海がきこえる」とジブリアニメ「海がきこえる」との違い
ジブリ映画の「海がきこえる」はジブリ作品の中でも個人的に好きで、高校生の頃は金曜ロードショーで流れた映像をビデオに録画して好きなシーンをノートに模写していました。(特にアニメーションの絵柄が好き)
おそらく5、6回くらいは通して観ていたと思うんですが、物語を所々しか覚えておらず、原作の小説を読んでちょっと戸惑いました。「あれ?こんな話だっけ?」みたいな感じで。
内容について触れていますのでちょいネタバレもあるかも知れません。ご了承ください。
「海がきこえる」のざっくりあらすじ
主人公は杜崎拓。高知県出身。
大学一年で高校の頃の回想と現在の大学生活と交互に物語が展開します。
修学旅行(行き先はハワイ)に関して学校と生徒の間で問題が勃発し、杜崎は意見を教師側に提示した。その時に同時に意見が挙がったのが松野豊。それ以降、松野とは仲良くなり親友となる。
高校2年の秋に転校してきた武藤里伽子。松野が武藤に惚れていることを知って、杜崎は武藤に対する気持ちよりも松野との友情を大切にしていた。
微妙なバランスの三角関係はあったものの、杜崎は武藤にハワイ旅行でお金を貸したり、武藤の父に会いに行くために東京まで一緒に付き添ったり、そこで一晩一緒に寝ることになったり、少しずつ距離が縮まっていく。みたいな物語です。
小説では所々に杜崎が高知の海を眺めるシーンがあります。
海はそこにいつもあって、やっぱ海はいいよなと実感しているシーンが印象的。
大学の先輩が登場する
小説では大学3年の津村知佐が登場。この女性が映画に出ていたかどうかかなり自信がありません。杜崎は授業中にいきなり話しかけられて、パーティーの人数合わせとして誘われる。
物語の本筋から言ってもそこまで重要な役割ではないように思いますが、美人なので武藤里伽子に嫉妬心を起こさせる意味合いがあったのかも。
武藤里伽子に2回ビンタされる
松野は武藤里伽子に告白をして呆気なくフラれる。
そのことを当て付けに杜崎は武藤にひどいことを言ってしまいビンタされる。これが1回目。
武藤里伽子は高校3年の学園祭にほとんど関わらなかった。そのせいで同級生からきつく詰め寄られる。
体育館の裏に呼び出され7人の女子から吊し上げられるも、武藤は辛辣に反論して迎撃する。
杜崎は隠れて見ていたが、終わった後に武藤に話しかける。ここで2回目のビンタ。
親友松野に殴られる
さっきの話の続きで杜崎がビンタされた後に、松野が通りかかってビンタされた理由を言うと、今度は松野に殴られる。
この3年の学園祭以降、松野とは一切話をしなくなる。
このシーンも映画にあったっけな〜? 今度また映画を見てみよう。
エンディングは明らかに全然違う
映画のエンディングでは駅のプラットフォームで杜崎が武藤を追いかけるシーンで終わりますが、小説は全然違う終わり方でした。
これは小説には申し訳ないですが、圧倒的に映画の方が素晴らしい終わり方でした。
映画の物語の終盤では、高校の同窓会をした帰りに高知城を同級生たちと見上げるシーンがあります。このシーンがやっぱりいい。小説でもちょっと違いますがこのシーンがあります。
ファンタジーと勝手に勘違いしてたけど、ド直球の恋愛小説
ジブリ映画といえばファンタジー映画が多いですよね。
今回、小説を読むまで「海がきこえる」もファンタジーのジャンルで勝手にくくっていましたが、これはどう考えてもド直球の恋愛物語だな、と今更ながらに気付きました。
イラストが素晴らしい
小説のカバーはもちろん、所々に挿絵が入っていてこのイラストがすごくいい。
ジブリ映画の作画の方と一緒な方が描いていると思いますが、人物が生き生きとして素晴らしい。80年代のシティーポップな雰囲気もある感じ。
「ティファニーで朝食を」の日本版と思っていたけど
「海がきこえる」のアニメを見て随分後に、トルーマン・カポーティの小説「ティファニーで朝食を」を読みました。この作品は「海がきこえる」のような内容で今でも好きな作品です。
「ティファニーで朝食を」を読んだ後に、真っ先に映画の「海がきこえる」を思い出しました。(二つとも似ている雰囲気だったので)
「ティファニーで朝食を」はわがままで振り回されてばかりだけど美人な女性に惚れてしまう男の話。大きく言えば「海がきこえる」も似ているんですが、あとがきに女優の酒井若菜さんが解説を書いていて、やっぱりちょっと違うか、と思い直しました。
酒井若菜さんはヒロインの武藤里伽子についてこう書いていました。
大人が思うより、ずっと理解している。ずっと我慢している。ずっと戦っている。ずっと無邪気なふりをしている。けれど、まだコントロールする術を知らない。
主人公の杜崎拓は、わがままで一方的に振り回す里伽子に、やきもきしながらも惹かれてしまう。大学生になり里伽子の家庭のことを知り、彼女の辛さを知ることで、彼らの年齢なりの解決方法を探る。
里伽子はわがままで自分勝手に見えていたけど、自分でもどうすれば良いのかわからないくらいに家庭の環境と転校というストレスと闘っていた。そのことを杜崎が理解して、できることはないかと歩み寄っていった。
まとめ
あとがきや最後の奥付までしっかり読んでいると、2度「え!?」と大きな声を出して驚きました。
1つ目は奥付にあった著者のプロフィール紹介に、氷室冴子さんが2008年に逝去、と書かれていたことです。51歳という若さで亡くなっていたのか…。
2つ目はこれまた奥付にカバーイラスト=近藤勝也と書かれていたこと。
「あれ?近藤勝也って、僕の地元新居浜市出身のあの人か!?」とwikiで調べてみるとやっぱりそうでした。
映画「海がきこえる」のあの素敵なイラストを描いていたのは近藤さんだったんだ!と今さらながらに驚きました。
近藤さんは崖の上のポニョの作画監督もされていて、地元新居浜市ではポニョのことをアピールしているんですが、いやいや、「海がきこえる」の作画もすごくいいやん、もっとアピールしてよ!と思ってしまった。
小説では続編もあります。続編の感想も書いています↓
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