染井為人さんの小説「悪い夏」の感想・解説・考察。
この作品はKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)で読みました。
2年くらい前に一度読んでいましたが、映画化されたということで感想記事を書こうと思い、少し読んでいたらそのまま最後まで読破してしまいました。
なんともやるせない話で、主人公がとにかくかわいそう ^^;
暗い話ですが、ついつい先を読み進めてしまうので作品のエンタメ性は高いと思います。
第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。
ネタバレしていますのでその点ご注意ください。

映画は見ていないですが、原作小説について書いています。映画を観たら原作と比較してみたいと思います。
小説「悪い夏」のざっくりあらすじ
主人公は佐々木守。26歳。身長は160cmに満たない。
社会福祉事務所の生活福祉課・保護担当課で働く。真面目な性格。
ケースの家庭訪問と独居老人の訪問が仕事。ケースとは生活保護受給者のことと書いていました。
この仕事きつそう。
明らかに生活保護を不正受給している人たち、風俗店の店長(やくざ)、シングルマザー、同じ会社の同僚などが登場します。
微妙に登場人物たちに繋がりがあって連鎖していく感じで、展開にスピード感を感じました。
簡単に言うと生活保護不正受給者を取り巻く人たちの物語。
小説「悪い夏」の登場人物
悪い夏の登場人物をご紹介します。
- 主人公の佐々木守…悪い人たちに巻き込まれ、後半は見るも無惨な状況に。
- 嶺本課長…守の上司。男色。守も狙われているっぽい。
- 高野洋司…守の7年先輩。生活保護受給者の審査を通すべく、代わりに女性に体の関係を求める悪い人物。
- 宮田有子…守の同期。自身の希望で保護担当課に異動。この部署を希望する人はほぼいないのでかなり変わっている。正義感が異常に強く、毎月2人は不正受給者を辞退に追い込むエース。
- 金本龍也…風俗店の店長。森野組の構成員。頭がいい。一番の収入源は違法ドラッグの売買。
- 山田吉男…42歳。離婚歴あり。ヘルニアと病気を抱えて生活保護受給者に。金本の命令でドラッグの売買をしている。守がケースワーカーとして担当している。
- 矢野潔子…72歳。スナックで働いていた。明らかに不正受給をしているが守は指摘できず。
- 林野愛美…22歳。4歳の娘を持つシングルマザー。生活保護受給者。守が恋に落ちる。
「悪い夏」を読んで得た新しい知識
この小説を読んで新しく知ったことがいくつかありました。
独老周り
生活福祉課・保護担当課としての守の仕事は生活保護受給者の見回りだけでなく、「独老回り」も仕事の一つ。
この言葉は知りませんでしたが隠語のようです。
一人暮らしの生活の手助けは表向きの理由で、実際は高齢者の生死確認が目的らしい。
この仕事もメンタル弱いと厳しいだろうなあ。
ぐるぐる病院
生活保護受給者の山田が診察してもらっている病院もかなり悪い。
悪い夏
ぐるぐる病院。これがこの病院の裏社会での俗称だ。吉男のような医療費のかからない生活保護受給者を患者として囲い、短期間でぐるぐると頻繁に入退院を繰り返されることから、そう呼ばれている
毎月大量に出される薬は不要なもので、高い医療費を請求できるから儲かるらしい。
これ現実社会でありそう。
年金の未納で生活保護を受けることができる!?
矢野潔子(72歳)は、年金を長年未納にしていて生活保護を受けている。え!そんなのできるんだ。
年金払うより生活保護受けた方が得じゃないか!?
悪い夏
生活保護受給者の多くは年金暮らしの者よりも多額の金を得ている。真面目に年金を納めてきた者よりも、そうでなかった者が得をするという納得しがたい現実がある。これを不公平と言わずして、何と称すればいいのだろうか
金本の言葉が新しい視点だった
風俗店の店長&やくざの金本。
金本は生活保護受給者の審査を通してあげる代わりに、一人一人にいくらかお金を徴収して儲けようと企む。
つまり世間は『生活保護を貰ってる奴らは、楽して金を得てずるい』ではなく、『一生懸命働いているのに生活保護世帯よりも安い賃金しか貰えない社会はおかしい』と考えるべきなんだ。
悪い夏
今の社会状況なら底辺は皆こぞって生活保護を申請すべきだと思っている。それが国民としての当然の権利だ。この矛盾したシステムを作った国に対する圧力にもなる。とも。
物語の展開をミスリードさせる巧みさ
守の同期の宮田有子の行動がいちいち謎で、なかなかに恐怖。これは何かしら終盤に大どんでん返しがあるだろうなと思ったらやっぱりありました。
とにかく異常に強い正義感で、ここまでくるともはや暴力的と言ってもいいかも。
悪い夏
正義を掲げるというよりは、悪を叩き潰したい。この二つは同じようで微妙にちがう気がした。そして宮田有子は後者に属している気がする
宮田有子の目的をある程度予測していましたが、見事に外れ、まさかの別展開。
読者をあえてミスリードさせる展開はこの作品の面白い要素の一つだと思います。
悲しさと可笑しさ
終盤で守は変わり果ててしまいます。
守が担当していた生活保護受給者の山田は、守のことを毛嫌いして馬鹿にしていましたが、終盤は守を励ましたり、気にかけてあげています。完全に関係性が逆転して、悲しくて不幸な状況下にも関わらず、どこか可笑しさがありました。
映画映えしそう
非常に暗い話で、物語に感情移入できない方も多いかも知れません。
エンタメ要素は強いので映画にすると見応えはありそうです。
原作ではこんな話ですが、映画との違いがあるのか気になっています。
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