森博嗣さんのミステリー小説「封印再度」の感想・解説・考察。
犀川教授と生徒の西之園萌絵が活躍するS&Mシリーズの5作目です。
今回もAudible(オーディブル)で聴きました。
オーディブルで他の小説も聴きながら、合間を見てちょくちょくこのシリーズも聴いています。とうとう5作目まで到達しました!
オーディブルのナレーションは毎度お馴染みの池添朋文さん。最初に聴いた時は萌絵役の声に少し笑ってしまいましたが、今はもう完全に自然に聴いています。安定感が最高。そして、今作は犀川先生が超激怒するシーンがあるんですが、このシーンの声の迫力がマジですごい。ぜひオーディブルで聴いてほしい。
今作はパズルミステリー(と言っていいのか自信なし)。細長い壺に鍵が入っているんですが、どう考えても鍵が入る余地がない。そしてその鍵を使って開ける謎の箱。遺言には「壺を割らずに鍵を出せ」的なメッセージが残されている。
相変わらず僕は謎を解くのが苦手で、正直なところあまり理解できていないですが、物語はとても楽しめました。
今回も内容を結構書いているのでネタバレしています。これから読もうと考えている方はご注意ください。

10作品あるシリーズの中でやっと半分まで読み終えました。登場人物たちの時間も少しずつ経過していき、なんだか少し寂しい気持ち。
ミステリー小説「封印再度」のざっくりあらすじ
ある日、西之園萌絵の元に犀川創平の妹である儀同世津子が尋ねてくる。儀同世津子の登場は1作目の「すべてがFになる」以来。
世津子は新聞記者をしていて、パズルマニアでもあるらしい。漫画家の香山マリモに会い、マリモのおじいさんが残した不思議な壺と箱の話を聞く。
マリモの祖父は日本画家の香山風采(ふうさい)。不思議な壺は「天地の瓢(こひょう)」と呼ばれ、壺には鍵が入っている。この鍵はどうやっても壺から出すことができず。その鍵は「無我の匣(はこ)」を開ける鍵でもあると言う。「ツボを割らないで鍵を出せ」という風采の遺言。
この不思議な香山家の家宝を巡って、犀川創平と西之園萌絵が謎を解いていく、という物語。
香山風采は50年前にこの二つの家宝を置いたまま密室で自殺。事件を追っていくうちに息子の林水も不審死をする。続いて香山マリモが自殺未遂をし、物語は複雑な展開に。
「封印再度」では物語が急展開
今作の一番の見どころは、犀川と萌絵の関係が急接近するところ。
なんと犀川が婚約届を萌絵に渡します。
実はこれ、萌絵の悪巧みの成果で、悪巧みを知った犀川は激怒。
この激怒具合が尋常じゃなく、よく仲直りできたなと思うくらい激しい怒りでした。
1作目から書かれていましたが、犀川は人格をいくつか持っていて、頭の切れる人格が登場する時に荒っぽい性格・口調になります。あの時の人格がおそらく出たんだろうなと推測しています。
Audibleのナレーションではド迫力の演技ですので、文庫本や電子書籍では味わえないエンタメになっています。オーディブルでぜひ。
二人の関係はシリーズが進むにつれて少しずついい感じになっているんですが、今回でまたちょっと元に戻ったかも知れません。犀川があきれた可能性あり。
「封印再度」で個人的なハイライト
萌絵の性格が少しずつわかってきてちょっと怖い
萌絵の性格が少しずつ理解できて、今作ではより悪女的なイメージが強くなりました。
毎度おなじみの愛知県警察の鵜飼警部が登場しますが、鵜飼は萌絵が好きでアプローチを仕掛けるも毎回スルーされる。
萌絵は鵜飼刑事が自分に好意があることを知りつつ、今回の事件の手がかりを入手すべく利用します。
鵜飼刑事然り、浜中然り。気があることを知りつつ利用する性格があからさまで怖かった。
基本的にはお嬢様なので、その性格は1作目から理解していましたが、今作はちょっと怖かった。
毎度おなじみの犀川先生のうんちく
犀川は萌絵と会話する際に、言葉のうんちくをよく話します。
今回は言葉のうんちくではなくヒラメの赤ちゃんの話。
ヒラメの赤ちゃんは通常の魚と同じで両目は左右反対側についているらしい。大人になるにつれて片目が裏側に移動するから、仕方なく体全体も平たくなるらしい。
浜中が女性っぽい雰囲気
1作目から登場している萌絵の大学の先輩である浜中。仲が良く(面倒見がいい)萌絵に気があるっぽい。
今作では萌絵視点ではない他の人からの浜中の人物像が書かれていました。
個人的には体格が大きめで男らしい風貌を勝手に想像していましたが、女性的な風貌・雰囲気がある人物だったようです。かわいい感じ。
ちなみに浜中はドクターコースを進んでいます。ドクターコースの意味がわかっておらずネットで調べてみると大学院生で博士課程とのこと。優秀な人物なのかな?
大学の友人たちの個性がいい
萌絵の同級生(大学3年)の友人が今作でも登場しますが、いい味が出ていました。
- 牧野洋子…前作にも登場した製図仲間。萌絵の親友。
- 高柳利恵…大阪弁がいい味を出していて、からっとした明るい性格
- 並木(オーディブルで聞いているので漢字が違うかも)…差し入れのシュークリームを4つも食べる
老刑事の登場がスパイスに
犀川は頭がキレる人物に対するアンテナがすごく、話しているとだいたい出来る人間と出来ない人間がわかるんですが、愛知県警察に関して言うと三浦警部以外はいまいちだと感じている。(勝手に判別されるのはそれはそれで悲しいよね)
そんな中、岐阜県警察の高齢の深澤警部との対面では三浦警部もしくはそれ以上の有能さを感じています。
愛知県警察の西之園本部長も名前を聞いたことあるくらい、深澤は有能な刑事らしい。
ナレーションでは刑事コロンボみたいな飄々とした口調で、今までにないキャラクターで物語のいいスパイスになっていました。
まとめ
今回の事件の肝は、偶然の重なりと勘違い。
香山風采が残した芸術作品は最後の1つの行動をすることで完成し、犀川はその芸術にいたく感動します。
今作では犀川が萌絵と急接近するシーンが印象的でしたが、もう一つ同じくらいのインパクトがあったのが国枝桃子。
国枝桃子は犀川と同じ建築学科で助教授をしていますが、とにかく怖いイメージ。そして笑った顔をほとんど見たことがないという人物なんですが、物語の最初の方からかなり上機嫌です。
物語の終盤では微笑むという異常さ 笑。
次回作も楽しみ。
過去の作品についても記事書いています↓
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