中島らもさんの小説「今夜、すべてのバーで」の感想記事です。
初版は1991年。
本の読み放題サブスクKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)で読みました。
アナログの紙の本と合わせて5回くらい読んでます。
この作品は吉川英治文学新人賞を受賞しています。
中島らもさんの小説やエッセイはどれも面白いですが、万人受けしやすい本書は特におすすめです。
あらすじ
18歳から17年間毎日大量にお酒を飲み続けた主人公が肝硬変になって、病院で診察を受けるシーンから物語が始まる。
主人公はフリーライターで幼馴染の友人(亡くなった)の妹を秘書として雇っている。
幼馴染とその妹のエピソード、アルコール中毒に向き合う病院での生活、アルコール依存からの再生。
読むたびに最後は泣いてしまいます。
文章のテンポが素晴らしい
文章のテンポ・リズムが良く、とにかく心地いい。
この小説は著者自身が体験したことを書いている部分が多そう。
肝臓に穴を開ける手術のシーンがあって、非常にリアルに本人の気持ちや手術の感触が書かれていました。
個人的に良かったところ
アルコール依存症の話
アルコール依存症には禁断症状が色々あるようで特に幻覚の話が興味深かった。
同じ部屋で入院する患者の一人が、自身が爆発した幻覚を見る。爆発して散らばった自分の破片を、主人公たちが一生懸命に探してあげる。きちんとその幻覚に乗っかって幻覚を終わらせてあげるシーンは心が温まりました。
高齢の患者の話
長く生きていると大体のことは自然と知っていることが多い。
若い人たちは良かれと思って新しいこと(おそらく知らないであろうこと)をお年寄りに教えてあげたりするけれど、もちろんお年寄りは知っている。けれどわざと知らないふりをする。
知っているといばりたいだけの人間と思われるのが嫌だから、あえてとぼける。そういう上手な生き方をしているのだとか。
依存症の話
この小説はアルコール依存の話がメインだけど、著者は依存症は多かれ少なかれ誰でもあると書いています。
恋人だったり、友人だったり、親だったり、美味しい食べ物だったり、ゲームだったり。
僕の依存はなんだろうな〜。睡眠かな。それはさすがになんか寂しいか。
依存そのものは誰にでもあって、ことさらアルコール依存を悪く言うものでもない。アルコール依存についてはこの本で詳しく(ある種、著者の怒りを持って)書かれていました。
会社の上司の話
以前勤めていた会社の上司の話が面白かった。
メスを入れて手術して以降、体から生気が抜けて一気にガタが来たという話。
人間の体はできる限りメスは入れないほうがいいらしい。
フィクションだと思うけど妙に記憶に残るエピソード。
まとめ
Kindleの電子書籍では最後に町田康さんが解説を書いていました。
この解説が非常にわかりやすくて面白い。
この小説もそうだけど、著者の小説にはどうしようもない人たちがよく登場します。
だけど、不思議と読んだ後は優しい気持ちになる。
どんなに惨めな人生でもどこか救われる、そんな内容が多いからだろうなあ。
そっと優しく寄り添ってくれる癒しの1冊です。
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