宮下奈都さんの小説「羊と鋼の森」の感想記事です。
2018年2月発刊。
この小説は本のサブスク「Kindle Unlimited キンドルアンリミテッド」で読みました。
ピアノに対する崇高な思い。登場人物たちのピアノにひたむきに向き合うプロ魂に心を打たれました。そんでもって文章がとても美しい。
小説「羊と鋼の森」のざっくりあらすじ
主人公は男性のピアノ調律師。
高校生の頃に、体育館にあるピアノの調律を見て調律師になることを決意する。
そのピアノの調律していたのは、超一流の調律師。会社の先輩でもある。
いつかその調律師に追いつきたいと思いつつ、日々のさまざまなお客さんのピアノの調律をする日々。
そこで繰り広げられる物語。
みたいな内容です。
会社の他の調律師の先輩もいい人が多く、お客さんとのやりとりも読んでいて心が温まります。
冒頭に高校時代の体育館の風景が書かれた文章があるんですが、読んでいる間、僕自身も高校時代を思い出すほどに素敵な文章でした。
ちなみに、タイトルの「羊と鋼の森」というのはピアノを構成してる材料に由来しているのだとか。鍵盤を叩くとハンマーが連動して弦を打ち音が鳴る仕組み。ハンマーは羊毛を固めたフェルトでできている。古いピアノの音を聞いて、どこかの山奥の羊を思い出す。そういう文章もあってこれもよかった。
小説「羊と鋼の森」の良かったところ
個人的に良かったと思う部分を引用します。
成長を焦る主人公と先輩のやりとり
「こつこつと守って、こつこつとヒット・エンド・ランです」
羊と鋼の森
こつこつって野球か。そんなわかりにくい比喩でいいのか。
「ホームランはないんですね」
開けたドアを押さえながら僕は確かめる。板鳥さんはしげしげと僕の顔を眺めた。
「ホームランは狙ってはだめなんです」
いつもそこにあるけれど、その大切さに気づくのは案外難しいのかも。
ピアノに出会うまで、美しいものに気づかずにいた。知らなかった、というのは少し違う。僕はたくさん知っていた。ただ、知っていることに気づかずにいたのだ。
羊と鋼の森
何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に。すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。
羊と鋼の森
僕はデザインの仕事をしているんですが、デザインの仕事をしていても重要だと感じました。言葉で詳細を意思疎通できるなら、良い結果が出やすい。
「なるべく具体的なものの名前を知っていて、細部を思い浮かべることができるっていうのは、案外重要なことなんだ」
羊と鋼の森
才能について。僕もやっぱりこの意見だなあ。
「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似ている何か」。
羊と鋼の森
イチローが引退した時にインタビューで語ってたのを今でも覚えてる。「好きという気持ちがあれば、高い壁に阻まれても乗り越えられる」みたいなニュアンスの言葉。才能っていうのは努力の継続が深く関係していると思うけど、継続するにはやっぱり「好き」が原動力になるんだろうなあ。
これは主人公がお客さんのピアノを聴いて感じたこと。決して上手ではないけれど上手でないなりに風景が浮かび上がってくるピアノの音。この音は演奏している本人のためにあるんだと。
音楽は人生を楽しむためのものだ。はっきりと思った。決して誰かと競うようなものじゃない。競ったとしても、勝負はあらかじめ決まっている。楽しんだものの勝ちだ。
羊と鋼の森
これ名言だよなあ。
小説「羊と鋼の森」は面白い?つまらない?
「羊と鋼の森」は本屋大賞を含めて3つの賞を受賞しています。
「羊と鋼の森」が面白いか、つまらないか、で言うとめちゃ面白くておすすめの小説です。
奇をてらわない、正統な小説という感じでしょうか。
小中高の国語の教科書やテストに出てきてもおかしくないほど、綺麗な物語と文章です。
まとめ
久しぶりに読んだ名著。
ここに良い小説がありますよ!と声を大にして言いたい。
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