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村上春樹さんの長編小説「街とその不確かな壁」の感想

村上春樹さんの「街とその不確かな壁」は全体的に穏やかな物語だった 小説
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村上春樹さんの長編小説「街とその不確かな壁」の感想記事です。

久しぶりの長編。

2023年4月発行。

この本は電子書籍で読みました。近年はKindle端末が読書しやすいので今後も本を買う時は電子書籍かな〜。 

gao the book
gao the book

主人公が45歳ということもあって人生の濃度を感じる物語だった。ゆったりと話が展開されていって、最終的には癒しを感じる一冊でした。

あとがきについて

この作品は著者自身が最後にあとがきを書いている。小説に著者があとがきを書くというのは珍しい。割と重要な点かなと思うので最初に取り上げてみる。

この小説を読むと著者の小説「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を思い出す人も多いと思う。特に序盤。

実際に似たような感じの物語(原型のような)で随分昔に短編小説を雑誌に投稿していたらしい。その出来が村上さん自身納得できていなかったため、長い時を経てちゃんと完成させたのが今作とのこと。

パラレルワールドと図書館

この作品は現実世界ともう一つの壁に囲まれた世界、この2つの世界で物語が交差しながら進んでいく。村上さんの小説ではこういう2つの世界が交差したり、もしくは並行して物語が進むというパターンが割と多い気がする。

現実世界と他にあり得る世界(パラレルワールドみたいな感じ)は、実は結構繋がっている。

物語では主人公は図書館に勤務することになる。図書館で働くといえば著者の小説「海辺のカフカ」を思い出す。「図書館奇譚」というタイトルの小説もあるのでちょっとした既視感も感じた。

異世界に行く鍵は「落ちる」体験が重要?

全く別の作品だけど、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」や宮崎駿のアニメ「となりのトトロ」でも異世界に遭遇するきっかけとして「落ちる」表現がある。

「不思議の国のアリス」はアリスがウサギを追いかけてたら穴に一緒に落ちて不思議の国へ。

「となりのトトロ」はメイが小さいトトロを追いかけて穴に入っていくと、樹木のウロに落ちてしまって、大きなトトロに出会う。すでに小さいトトロには会っているけど(まっくろくろすけも既に見えてた)、決定的なのはこの大きなトトロとの出会いだと思う。

今回の作品も主人公が45歳の誕生日に、地面に掘られた穴に唐突に落ちることで、もう一つの不思議な世界に行く。

ずっしりとした人生の重み、全体を通して静かな小説だった

村上さんの小説では飛び抜けておかしなキャラクターや、不思議な能力を持った人物が登場することがあるけど、今回の物語ではそこまで尖ったキャラクターは現れなかった。(幽霊のおじさんが登場するけど、今までの小説からするとパンチが弱い)

そういう意味ではかなり大人の雰囲気というか、穏やか(ずっしりとした人生の重みを感じるというか)で音が無いような小説だった。本を読んでいると何かしら音や音楽が流れる雰囲気を感じ取れるんだけど、この小説は本当に無音って感じがしたなあ。

主人公はたった一つの真実の愛を追い求めるんだけど、途中でいくつか他の人と付き合っていたりする。このあたり人によってはツッコミが入りそうだけど、個人的にはリアルだなと思う。

この作品は個人的には中程度のおすすめ度という感じ。そもそも「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」が実はそんなに好きではない作品なので、その雰囲気に似ている今作もやはりそこまでめちゃくちゃおすすめな作品ではないかなあ。

主人公の年齢が45歳で奇しくも僕と同じ歳だったので、その点は共感できる部分があった。

なにはともあれ村上春樹さんにはまだまだ新作出してほしい。

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