川村元気さんの小説「8番出口」の感想・考察・解説。
この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。
書籍は2025年7月に発刊。オーディブル版は2025年8月22日に配信開始。
感想を書くにあたって、オーディブルのサイトで説明を読みました。著者の川村元気さんは8月29日に公開される映画の監督とのこと。名前を聞いてもピンと来ませんでしたが、僕が知らないだけで、有名な監督さんのようです。てっきり映画用に作家の方が書いたものだとばかり思っていました。
オーディブル版では3時間の作品なので、本で言うとそこまでページ数は多くなさそうです。
映画にするにはちょうどいい量なので、おそらく映画はほぼ小説と同じ内容だと推測します。
映画を見た方は小説との違いをチェックしてみてください。
ということでネタバレしていますのでご了承ください。

一応、ホラー作品になるのかな?このあたりちょっと不明です。ただ、怖いかどうかで言うと個人的には全然怖くなかったです。
小説「8番出口」の序盤のあらすじ
章はタイトルに合わせて全部で8章。
主人公は20代後半から30代前半の男性。(年齢ははっきり分かりませんがこれくらいだと推察)
満員電車の地下鉄に乗る主人公。
優先席に座る赤ちゃんを抱えた女性。赤ちゃんの泣き声にイラつくサラリーマン。サラリーマンはその女性に対して、怒鳴り、文句を言います。
主人公はその間に割って入り女性を助けたい気持ちはあったものの、見て見ぬ振りをして、スマホを見ながらそのまま電車を降り地下通路に。他の乗客もスマホを見て注意する人はいなかった。
地下通路に行く途中、以前付き合っていた彼女から「妊娠している。どうしようか迷っている」というメールが来る。通話してみると泣いていて、産むことを決めたと伝える。主人公はその決断に踏み込むことができず焦る。急に、通話音声にノイズが走り、彼女の言葉が機械音のようにループして通話が切断される。
地下通路に行くと、何やら様子がおかしい。スマホのアンテナが「888」という表示になる。
ゲームでお馴染みのあの8番出口に迷い込みます。
例のおじさんが登場したり、わかりやすい異変が出て引き返すことで、8番出口の案内表示(ここから出るためのルール)に気づく。
「手の込んだ狂った世界」に迷い込んだと自覚する主人公。
ゲーム版の「8番出口」にはなかった、人物描写とストーリー設定
最初は「ゲームと同じように、このままクリアするまでの物語が続くのか?だとしたら最後まで聴くにはちょっときついな」と思っていました。ですが、きちんとストーリ仕立てになっていて、最後まで中断せずに楽しめました。
主人公は宮城県の海に近い場所に住んでいて、別れた彼女とは小学生の頃からの幼馴染。中学では海沿いにある釣具店の友人と彼女を含め、バンドを組んでいた。
ある日、大震災による津波で町は飲まれ、主人公と幼馴染の彼女は助かるが、釣具店の友人は行方不明のまま。そして、後のウイルスの蔓延による影響で、ぜんそく持ちになります。
作中では地名など明記されていなかったですが、東日本大震災とコロナウイルスが主人公に濃い影を残しているようです。
主人公は高校を卒業した後、彼女と付き合い始める。二人は東京に出てきて、彼女は出版社に就職。主人公はアルバイトをしたり色々な仕事をしたが長く続かず、現在はプログラマーとして仕事をしている。震災後、バンドを組んでいた友人を探しに行かず、地元にも帰らなかった二人。二人はそのことに強い罪悪感を抱えていた。
また、主人公は父を見たことがなく、その影響で、親になる勇気を持てなかった。
彼女も同じような悩みがあり、二人は似ています。
このまま現実から目を逸らし続け、8番出口でずっと迷い続ける人生がいいのか。それとも勇気を持って現実世界で生きていくのか。本気で悩む主人公。
中盤では彼女と電話がつながり(これも異変の一つだったかも知れません)、待っている彼女のために、脱出を決意する主人公。
他にも、途中から一緒に出口に向かう謎の少年も登場します。この少年もきちんと最後には謎が解明されます。
この小説のキーは「罪悪感」と「答えが無く不安はあるけれど、それでも突き進む勇気」だと受け取りました。
主人公ならきっとやれる!頑張れ!と応援したくなる物語でした。
オーディブル版はナレーターが豪華
オーディブル版の「8番出口」はナレーションを声優の梶裕貴さんが担当。
梶さんと言えば主人公キャラをしているイメージが強く、1人だけのナレーションとは言え、これ以上にないほど豪華。
特に慟哭するシーンと叫ぶシーンは大迫力でした。
小説「8番出口」の良かったところ
おじさんは、かつてちゃんと人だった
8番出口に登場する薄毛のサラリーマンのおじさん。ループして何度も登場する味のあるキャラですが、小説では元々人間のおじさんでした。
このおじさん視点の章があるので、ゲームには無い部分で楽しめます。
おじさんも8番出口に迷い込んでいて、毎度ループして登場する人物は女子高生という設定。個人的にはおじさんより女子高生の方がいいよな、と思いました(おい!)。
話しかけても全然反応しない女子高生が、急に話しかけてきて「この場所はダンテの神曲に登場する煉獄」「満員電車で毎日同じことを繰り返して、そっちの方が地獄みたいでかわいそ」と言われる。
そんな言葉を繰り返され、発狂するおじさん(ほんとにやめて…)。
おじさんはお酒を飲むと暴力的になり、家族から追い出されています。子供にも手をあげていた。
結局、8番出口に辿り着いていないにも関わらず、途中の偽物の出口に突っ走ってしまい、ループするおじさんになってしまいます。いや、さすがにちょっとかわいそう。
おじさんの「異変が無い方が気が狂いそうになる」という台詞。この台詞が僕の中でこの小説のベストワードでした。これは本当にそうだよなあ。明らかな異変があれば引き返せば正解。何も異変が無いと逆に疑心暗鬼になる。精神すり減るて。
〇〇番出口の看板と案内表示がある場所はセーフティーゾーン
8番出口のゲームはプレイしたことがなくて、ストリーマーさんたちがやっているのを見たことはあります。
小説を読んで新しく気づいたんですが、〇〇番出口という看板と案内表示がある場所は、唯一、異変が起きない安全な場所。セーフティーゾーンだったようです。
この場所にいれば異変が起きないので、現実に起こることとの区別もつきます。
途中で謎の少年が出てきますが、セーフティーゾーンでこの少年の足音が聞こえてくることで、この少年が異変の一つではなく、リアルな人間であることの判断をしています。
8番出口の「異変」はその人ごとに異なる
途中から謎の少年と共に行動するんですが、少年が見る異変と主人公が見る異変では内容が違うことに気づきます。
地下通路に迷い込んだおじさんの異変も主人公と少年では違っていました。
人が持つ罪悪感をネタに異変は変わっていくようです。
主人公はこの懺悔室のような地下通路を「人間の罪を反省させるプログラム」と言っています。
まとめ
個人的に一番面白かったのは、主人公とおじさんとの関係性です。
主人公がおじさんと初対面した際に、助けを求めるも無反応で「あ、こいつやべえやつだ」とドン引きする場面。
中盤では、おじさんがなぜあんなことになったのか心配する主人公。
終盤では、あろうことか(というか物語の流れの中ではあり得るんですが)、おじさんと通路での最後のすれ違いをした後、さよならおじさんと涙を流す主人公。さすがにちょっと笑ってしまいました。
本を読む前から(オーディブルですが)どういう物語なのか、かなり気になっていましたが、きちんと登場人物に物語があって、想像していた以上に楽しめました。
映画の方がビジュアルがある分、より一層楽しめそうな気はしています。
気になった方はチェックしてみてください。



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