伊坂幸太郎さんの小説「マイクロスパイ・アンサンブル」の感想・解説・考察。
文庫本は2025年8月発刊。
この小説はKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)で読みました。
二つの世界が時々交差するファンタジー物語。
いつものように伊坂節の効いた物語ですが、この作品は大きな試みがされています。

今作も伊坂幸太郎さんらしい暖かみのある物語が炸裂。実家の安心感。
小説「マイクロスパイ・アンサンブル」のあらすじ
ネタバレをしない程度にあらすじをご紹介します。
福島県にある猪苗代湖を中心にしたファンタジー風の物語。
2つの世界の物語が交互に展開。
読み進めていくうちに、二つの世界が微妙にリンクしていることに気づきます。
そして、何かの拍子で条件が揃うと謎の扉が現れ、その扉から二つの世界を行き来できる。
現実世界とマイクロ世界の住人のちょっとしたつながりと奇跡の物語。
後書きで知りましたが、この作品は2015年から続く音楽とアートのイベント「オハラ☆ブレイク」で配られた小冊子の小説をまとめて1冊にしたもの、とのこと。
7年分の物語、後書き、最後に2025年の書き下ろし物語があります。(書き下ろしの物語は文庫本、電子書籍だけかもしれません)
毎年イベントに参加できなかった方も多いと思うので、まとめて読めるのは嬉しいでしょうね。
作中に歌詞がよく登場しますが、これはTheピーズとTOMOVSKYさんの曲の歌詞だそうです。
個人的にはどちらのミュージシャンも名前は聞いたことはありましたが、曲は全く知らず、その点で物語の良さが半減しているかも知れません ^^;
それにしても、こういう形で小説を書けるのは伊坂さんも嬉しいだろうなと勝手に想像しています。(日本のミュージシャンの話がエッセイでよく登場するので、きっと音楽が好きなはず)
小説「マイクロスパイ・アンサンブル」の登場人物
小説「マイクロスパイ・アンサンブル」の登場人物。
別世界の人たち↓
- 名前は不明…別世界の主人公。父や仲間から暴力を振るわれていたが、ハルトとたまたま遭遇して助けられ、エージェントに誘われる。少年だが年齢は不明。
- エージェント・ハルト…国家の為に働く諜報員(スパイ)。エンジン無しでグライダーのように優雅に生きたいと願う。妻は病気で亡くなる。
- エージェント・オハラ…ハルトとチームを組むことが多い。緊迫感がなくケアレスミスが多い。スナック菓子が大好き。
- 歌う男(名前の表記は無し)…未開の地(集落)に住む、もう一つの世界の住人。もう一つの世界ではギターを弾き歌を歌っていたらしい。
- レイク…ハルトの息子。
現実世界の人たち↓
- 松嶋…現実世界の主人公。グライダーのようにふらふらとしていた。エンジンを積みたかった。猪苗代湖で様々な出会いに遭遇する。
- ふっくらした女性(名前の表記は無し)…松嶋の会社の飲み会で、ふっくらした体型を松嶋にからかわれる。その後、松嶋とたまたま遭遇し、猪苗代湖で落としたアクセサリーを一緒に探す。
- 小森課長…松嶋の上司。女性。門倉課長と同期。
- 門倉課長…穏やかな性格でよく謝る。ぺこぺこ門倉と呼ばれる。宝くじを買うのが趣味。一億円が当たったが全てを寄付した。
- 天野…松嶋より2つ上の会社の先輩。松嶋と付き合う。
- CEO…そこそこ有名な社長。別世界の二人に助けられたお礼で、住む場所を提供する。そして二人に配信を薦めた。
- 橋田…50代。投資会社を運営。別世界に行ったことがある。
小説「マイクロスパイ・アンサンブル」で良かったところ
小説「マイクロスパイ・アンサンブル」で個人的に良かった部分を書きます。
恋の話がいい
会社のビンゴ大会で結婚を申し込む主人公。
非常に良いシーンで、この作品の見どころの一つです。
「ビンゴは正解が一つじゃないのがいいですね」と言った。「組み合わせはいろいろあって」
マイクロスパイ・アンサンブル
〜 中略 〜
恥ずかしそうにしている彼女がとても可愛らしく見えたせいだろう、次にマイクを向けられた僕は、「正解がどれかは分からないけれど、とにかく、僕も彼女も、全部揃ったんですから問題ないです」とほとんど意味のない挨拶をしてしまった。大して面白い言葉でもなかった。同僚たちが苦笑いをしているのが見えたが、僕はあまり気にせず、「という訳で、彼女と結婚したいです」と続けた。
この二人のビンゴの達成も異世界の扉が登場しそうなくらいに「揃った」状況で奇跡。
門倉課長の不思議な魅力
主人公の上司の門倉課長。ペコペコ謝ることで社内でも有名。
謝罪専門として仕事をする場面も。
そんな門倉課長だが、宝くじが当たり、その大金を全て寄付する。
「やっぱり、くじってのは、当たるかどうかのわくわく感が醍醐味で、当たっちゃうと別に、大したことはないね」
マイクロスパイ・アンサンブル
寄附した相手も物語に登場します。
普通では考えられない行動が、妙に癒しポイント。
天野のお父さんの話がいい
天野の父がある日突然、家族で作戦会議をする。
「わたしは小学生で、お姉ちゃんが中学生だったんだけど、『いいか、これから人生で大変なことがあるかもしれない。いや、きっとある。だけど、びびることはないぞ。たいがいのことは、またもとに戻る。やり直せるんだからな』って話しはじめて。作戦っていうほど作戦じゃないんだけどね」
マイクロスパイ・アンサンブル
その後、父はすぐに亡くなる。病気を隠していたらしい。
その時にもらった「起き上がり小法師の人形」もいい味を出しています。
泣ける。
歌詞とリンクした物語なのかも?
物語中に登場するTheピーズとTOMOVSKYさんの歌詞。
エンジンがない、などの歌詞からグライダーが物語に登場します。
もしかすると、歌詞を元に物語を作っていたのかも知れませんね。
謝ることに関するプライドの話。
スポンジが全てを吸収してくれる話。
歌詞とリンクした物語がいい感じでした。
まとめ
この作品ではなぜか妙に主人公の恋物語が心にずしんときました。
今さら始まったことではないですが、伊坂幸太郎さんの小説に登場する女性ってなんでこうも魅力的なんだろう。本当にこれは謎。
後書きのインタビューで、小原圧助なる人物の話があります。民謡「会津磐梯山」の歌詞に登場する人物だそうで、朝寝・朝酒・朝風呂が大好きで財産を失くした人物らしい。
エージェント・オハラというキャラはこの小原圧助がモチーフっぽいですね。とぼけた感じのキャラでなんとも憎めない。
最初読んだ時はちょっと分かりにくかったですが、この記事を書くために2度読むことで理解が深まりました。
ということで、この記事を読んだ方はすんなりと物語に入っていけるはず!


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