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小説「国宝」の感想。歌舞伎に人生をかけたその生き様に感動。

小説「国宝」の感想。歌舞伎に人生をかけたその生き様に感動。 Audible
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吉田修一さんの小説「国宝」(上・下巻)の感想・考察・解説。

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この作品はAudible(オーディブル)で聴きました。

ある程度内容を書いていて、ネタバレしていますので、予めご了承ください。

映画を見た方は、原作小説の内容と比べてみると新しい発見があるかも知れません。

gao the book
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吉田修一さんの小説は、よく考えてみると初めて読みました。前々から名前だけは知っていたんですが、国宝が良すぎたので他の作品も読もうと思います。

小説「国宝」の超ざっくりあらすじ

ヤクザの息子である立花喜久雄(きくお)と、同い年で大阪歌舞伎の名門の息子、花江俊介の二人が、昭和の時代に歌舞伎ブームを巻き起こす。

主人公の喜久雄は日本一の歌舞伎役者を目指す。歌舞伎に人生をかける人たちの情熱と生き様。喜久雄の人生もそうですが、その周りの人たちの人生にも何度も涙しました。

上巻は喜久雄が14歳から30歳までの物語。下巻は60代までの物語になっています。

一人の人生をほぼ丸ごと描いた小説。時間があっという間に過ぎ、新しい命が生まれ、周りの人たちもどんどん歳をとって亡くなる。

終盤の喜久雄の歌舞伎は凄まじく、もはや誰も辿り着けない領域に。長く連れ添ってきた妻、息子、仕事仲間ですら、その姿に圧倒される。

上下巻あり物語が長く、しかもどの場面も重要且つ面白いので、感想を書くのにかなり悩みました。物語を全て追って書く訳にもいかないので、個人的に良かったところや、気になったところをご紹介したいと思います。

小説「国宝」で個人的に良かったところ

オーディブル版のナレーションが凄い

オーディブルを聴いた方は、まずナレーションの凄さに感動すると思います。

ナレーションは尾上菊之助さん。

本物の歌舞伎役者のナレーションがすごい。

この小説では歌舞伎の演目をする場面が何度もあるんですが、本物の歌舞伎役者の口上は迫力が違う。

尾上菊之助さんのことをネットで調べてみると、つい先日グランメゾン東京というドラマを見ていて、そこに尾上菊之助さんも敵役として出ていて「あー!この人だったんだ」と納得。演技もナレーションもすごい人だった!

作中に登場する食べ物がちょっと気になった

この小説は1960年代、昭和の時代から始まります。

1965年。主人公の喜久雄は高校生になり、大阪歌舞伎の名門、丹波屋(花江半二郎)の部屋子になります。

そこで「うまかっちゃん食べるか?」という会話があるんですが、この時代にうまかっちゃんあったっけ?と疑問に。

もしかするとインスタントラーメンではなくて、別の食べ物の可能性がありますね。

もう一つは下巻でお菓子の「パックンチョ」が登場。おそらくパックンチョが販売開始した年くらいだと思います。

食べ物の固有名詞が出てくると、ついつい反応してしまいました 笑。

昭和の芸能界はヤクザと密接な関係があった?

物語は立花組の新年会から始まります。ここに呼ばれていたのが大阪歌舞伎で有名な花江半二郎。

時代としては、大阪万博が始まる前の時代。紅白がカラー放送になったり、美空ひばりや坂本九、三波春夫などの話が出てきたりします。

小説の中にも書かれていましたが、当時の芸能界はヤクザとの関わりが深かったようです。近年はどうなんでしょうね、ちょっと分かりませんが、主人公がヤクザの息子、という設定からも、著者はこの点を描きたかったのかな?

いずれにしてもそういう関係性が、昭和の芸能界を盛り上げて来たんだな〜と、新しい発見でした。

徳次(とくじ)の存在が頼もしい

早川徳次は立花組の組員で喜久雄の2歳上。喜久雄を坊ちゃんと呼び、喜久雄に付き添います。(途中、かなり長い間離れ離れになります)

兄弟のような仲の良さで、喜久雄がどんな境遇にあっても常に味方でいてくれる。

喜久雄も兄のような存在で嬉しかっただろうなあ。

喜久雄には綾乃という隠し子(芸妓の娘)がいるんですが、徳次は小さい頃から綾乃の面倒を見ていて仲が良かった。

綾乃が中学生になると、悪い仲間たちと遊ぶようになり、最悪なことに組員の息子の家でシンナーを吸っていた。朝方、徳次が助けに行ったものの組員とトラブルになり、徳次は小指を失う。相手のヤクザも徳次を仲間にしたいくらいに、潔く何の躊躇もなく指を詰めた。

徳次は喜久雄のためなら、刺し違えててでも命を投げ出す覚悟があり、綾乃の身に危険が迫っていたことを知った時にも死ぬ覚悟でいた。

喜久雄は徳次のそんな気持ちにある種の恐れもあったと思います。下巻の中盤あたりで徳次が中国に行く際に、徳次自身の命はもちろん、絶対に人を殺めないでほしいと懇願します。

徳次が中国に行った後、長い間ずっと音沙汰がありませんでしたが、終盤に日本に立ち寄ります。このシーンも良かった。最後、どうなったのか描かれていませんが、読者の想像に委ねる形で終わります。

暴力教師の尾崎がナイスすぎた

喜久雄の中学時代の体育教師の尾崎。喜久雄がヤクザの息子であることを知っていても、悪いことをしていたらゲンコツをして叱る。

立花組の親分である父、権五郎(ごんごろう)にそのことを話すも、権五郎は「肝の座った先生だ」とその体育教師に一目置いていた。

物語の序盤、父の権五郎は新年会の席で宮地組に襲われて亡くなります。その1年後、学校に宮地組の会長が話をしにくる(体育館で大勢の前で)という機会があり、喜久雄はその時をずっと待っていた。当日、ドスを持って襲い掛かるが、体育教師の尾崎が咄嗟に気づき、宮地組の会長は無事。

ここで尾崎は喜久雄を助けるために、宮地組の会長に提案をします。今回のことは無かったことにする(警察沙汰にしない)代わりに、喜久雄は長崎から出て行くことを条件とした。無事、なんとか喜久雄は助かります。

この小説では喜久雄もそうですが、特に周囲の人たちが優しく人情に厚い人が多い。

花江半二郎の優しさ

花江半二郎は喜久雄を家に住まわせ、歌舞伎の稽古もつけます。喜久雄の母親は毎月いくらかを半二郎の元へ送金していたが、半二郎はそのお金は一切使わず、喜久雄のためにこっそりと貯めていた。

喜久雄と花江俊介の初舞台が成功を収め、京都の大舞台で二人とも主役に抜擢される。そのことを実家の母に伝えるために、半二郎は喜久雄に数日、実家に帰ることを勧めた。喜久雄が家に帰ってみると、勢力のあった立花組はほぼ瓦解し、家には他の住人が主人として住んでいた。母はいたが、その家の召使いとなって働いていた。その時の喜久雄の悔しい気持ちと、母の気丈な態度、心の強さに、喜久雄は改めて奮起します。

喜久雄の実家の事情を半二郎も気づいていて、喜久雄に実家の現状を知らせる意味でも帰らせたようです。

喜久雄は母に日本一の歌舞伎役者になる、と伝え実家を後にする。大阪に戻ると、半二郎から母から送金された全額を貯金した通帳をもらう(およそ180万円。当時の180万円なので今だともっと価値が高いかも?)。半二郎は好きに使っていいと渡す。

喜久雄の母も半二郎も優しすぎてこんなの泣きますわ。

喜久雄のちゃらんぽらんな性格も一つの魅力?

喜久雄は歌舞伎に対する姿勢は真剣で、元々真面目な性格ではあるんですが、ところどころ「え?」と驚愕する行動をしたりもします。

母の貯金180万円を半二郎から渡されましたが、そのお金はなんと、スポーツカーを買って全額使い切ります。さすがの半二郎もこれにはびっくり。

また、後年、喜久雄がどうにもこうにも行かない時に、江戸歌舞伎の大御所である吾妻千五郎の娘、彰子と付き合い、政略結婚では無いですが、吾妻千五郎の看板・力欲しさに強引に結婚を持ちかけます。吾妻千五郎はその結婚に大反対で、その後も仲が悪いまま。

謎な行動と打算的な行動をするところが、完璧ではない人間という点で、ある種の魅力になっているのかも。

ちなみに、喜久雄は歌舞伎以外で趣味のようなものは無く、強いて言うなら、車の運転、スピードに身を任せている間は心がとても安らぐようです。スポーツカーを買ったのは一応、そんな意味もあったようです。

何度も失態を犯して、何度も改心する。この繰り返しが人間らしい。終盤の喜久雄の歌舞伎は国宝に認定されるほどですが、そんな人間でも山あり谷あり。完璧ではないからこそ、感動するのかも知れません。

小説「国宝」の終盤の話の謎

物語の終盤では、喜久雄の歌舞伎は完璧を超える域に達します。しかし、完璧を求める客に対して、完璧を超える芸は、客とのギャップが生じてしまう。喜久雄はなるべく完璧の域に出ないように心がけていたが、度々、歌舞伎の演目の最中に喜久雄にしか見れない世界へ行ってしまう。

長年一緒に仕事をしてきた竹野もその異常さに気づくが、もはや遅く、喜久雄の息子や嫁もそのことを知っていたが誰も止めることはできなかった。

最後に、喜久雄は演目が終わった後、客席を通り抜け、外に出て、満ち足りた顔で車が行き交う銀座の交差点へ向かいます。

これは死を意味したのか、それともこの世界を観たかったのか、ちょっとわかっておりません ^^;

いずれにしても、凄まじい生き様で、息を呑む終わり方でした。

無いとは思いたいですが、徳次が乗っている車と衝突、なんてことはないですよね。きっと。

小説「国宝」の登場人物

一応、簡単に登場人物を書いておきます。映画では登場してない人物もいるかも知れません。

他にも登場人物がいますが、主要なメンバーだけ。

立花組(主人公に近しい人たち)

  • 立花喜久雄(きくお)…主人公。3代目花江半二郎を襲名する。終盤は人間国宝に認定され、まさに日本一の歌舞伎役者に。
  • 立花権五郎(ごんごろう)…父。長崎県にある立花組親分。大男で腕っ節が強い。41歳で亡くなる。
  • 立花千代子…母。病気で喜久雄が2歳の時に亡くなる。
  • 立花マツ…後妻。喜久雄の育ての親。舞や踊りが好きで、喜久雄に歌舞伎をさせる。
  • 早川徳次(とくじ)…立花組の組員で喜久雄の2歳上。喜久雄を坊ちゃんと呼び移行、この物語ではほぼ一緒に付き添う。喜久雄がどんな境遇にあった時でも、常に味方でいた。仁義に熱い男。


辻村…権五郎の弟分だったが権五郎を撃つ。このことを喜久雄は知らない。愛甲会の頭としてその後は立花組は下部組織になる。以降、喜久雄には協力を惜しまない。

  • 春江…喜久雄が中学時代の頃からの恋人。後に花江俊介と結婚する。
  • 市駒…京都祇園の舞妓。喜久雄との子、綾乃を産み、育てる。
  • 綾乃…市駒と喜久雄の娘。父の喜久雄とは幼少の頃からあまり生活を共にしていないためか、喜久雄を少し恨んでいた。物語の後半では大関と結婚する。相撲が大好き。

花江俊介の周りの人たち

  • 花江俊介…大阪の歌舞伎役者丹波屋の息子。喜久雄とは同い年、途中離脱してしまうが、終盤に歌舞伎に復帰。
  • 花江半二郎…俊介の父。立花組の新年会に呼ばれていた。その関係性もあり、後に喜久雄を家に住まわせ、歌舞伎の稽古をつけることに。他人にここまでしてあげる優しさがすごい。
  • 花江幸子…俊介の母。3代目花江半二郎の名は俊介ではなく、喜久雄に襲名されます。我が子ではないことに気が狂いそうになり、喜久雄に本心を伝えますが、喜久雄は襲名を辞めると言った後、腹が決まり、全力で喜久雄をサポートします。幸子もまたすごい人物。

その他の人たち

  • 小野川満菊…女形として活躍。喜久雄にとっては不気味な存在がったが、後年、俊介の稽古をつける。
  • 姉川鶴若…満菊と同じく立女形。喜久雄は鶴若の元で歌舞伎をするが、いじめ抜かれる。
  • 伊藤京之介…吾妻千五郎と並ぶ江戸歌舞伎の役者。喜久雄の7歳上だが仲がいい。笑い上戸(ゲラ)で舞台中でも笑いが抑えられないこともある。めちゃくちゃいい人そう。

弁天…徳次と仲が良く一緒によく行動を共にする。後に芸人として人気を博す。かなり出世してびっくり。

  • 梅木…歌舞伎の興行会社、三友の社長。花江半二郎や喜久雄が好きで、強力な後ろ盾となってくれる。
  • 竹野…生意気な性格だがあえて梅木は新入社員として雇う。のちに喜久雄にとって重要な間柄に。
  • 彰子…吾妻千五郎の娘。喜久雄と同棲しその後、結婚。
  • 吾妻千五郎…富士見屋。江戸歌舞伎の大御所。喜久雄とは絶交状態。

まとめ

二人の歌舞伎の天才が脚光を浴びたかと思えば、歌舞伎の人気はすぐ下火になる。

俊介が途中で離脱し、喜久雄もまた、その後大変に苦労します。

うまくいっている時とダメな時の波が交互に来て、本当に人生って順風満帆に行かないものだなあと。

細かい部分で言うと本当に色々な話があって、登場人物も他にたくさん登場します。かなり濃い上下巻の小説でした。

歌舞伎をほとんど知らない僕にとって、文章だけでは理解が難しいと感じました。映画であればビジュアルと音があるので、かなり楽しめそう。

近年読んだ小説の中でもかなりおすすめです。

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