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貴志祐介さんのホラー小説「梅雨物語」の感想。不気味な3篇!

貴志祐介さんのホラー小説「梅雨物語」の感想。不気味な3篇! ホラー
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貴志祐介さんのホラー小説「梅雨物語」の感想・解説・考察。

Amazon.co.jp: 梅雨物語 (角川ホラー文庫) 電子書籍: 貴志 祐介: Kindleストア
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この作品はKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)で読みました。

中篇の小説が3編入った中編集。

3篇とも得体の知れない怖さのある作品でした。

ホラー小説というジャンルのくくりになっていますが、どちらかと言うとミステリー要素の方が強い感じです。

gao the book
gao the book

じめっとした気持ち悪い3篇。この記事を書いている時に気づきましたが、なるほど、梅雨物語というタイトルがぴったりです。(他の意味もありそうですが)

1作品ずつ簡単にあらすじと、個人的に良かった点を書きます。3篇ともネタバレはしていません。

梅雨物語「皐月闇(さつきやみ)」

「皐月闇(さつきやみ)」のあらすじ

高齢で一人暮らしをする男性(主人公)。

突如、20代の美しい女性が家を訪ねて来る。

話を聞くと、中学で教師をしていた頃の生徒の一人だった。

自宅のどの部屋もめちゃくちゃでとっ散らかっていたが、自分がいつも過ごしている部屋なら、ギリギリ座る場所くらいはあるだろうと思い、女性をその部屋に通す。

女性が訪問して来た意図は「13の句について先生の感想が欲しい」ということだった。

この13の句は当時の兄が書いた句。好きな女性に宛てた句だとわかる。

高齢の男性は全ての感想を述べ、女性も理解を示す。しかし、その後、女性は反論するかのように13の句の説明をし返す。

高齢の男性は認知症の為、近年は記憶に自信がなかったものの、少しずつ過去のことを思い出していきます。

女性の怒涛の責め立てに当惑しながらも、認知症のため考えがまとまらない高齢男性。

昭和時代の古い物語かなと勝手に想像していましたが、スマホも登場するので割と近年の話のようです。

主人公の高齢男性が認知症ということもあって、全体的に霞がかかったように物語が掴みにくい。

それに加えて、後半の女性の辛辣さと、なぜそんなに怒っているのか?、終盤になるまでわからず、なんとも言えない心地の悪さのある話でした。

「皐月闇(さつきやみ)」の良かったところ

皐月闇とは?

タイトルの皐月闇というのは、この物語で登場する句集のタイトルです。

主人公の考察では下のような意味があるらしい。

「皐月」というのは陰暦の五月で、太陽暦の五月下旬から七月中旬にあたる。「皐月闇」は、ちょうど今時分の、五月雨が降る頃の夜の暗さを言う。一説には、分厚い雲に覆われた昼間の暗さも指すらしい。

皐月闇

ただ、俳句では一般的な表記の仕方ではないため、何か裏があると感じる主人公。

俳句の本質

主人公が教師だった当時、生徒の女性に語った「俳句の本質」の話が印象的でした。

「先生は、こうおっしゃったんです。もしも人間が不死の存在だったなら、俳句を詠むことはなかっただろうと」

皐月闇

「先生は、すべての俳句は、この惑星の上で過ごす短い人生の断片に対する、限りない愛惜の情から生まれるものだとおっしゃいました。だからこそ、ほんの小さな情景や季節の描写が、いかに貴重でかけがえのない瞬間かを思い起こさせて、深く心を打つんだと」

皐月闇

辞世の句は死の直前なので、どうしても慌ただしく別れの挨拶になりがちだが、そもそも人生で詠む全ての句は辞世の句と言ってもいいかも知れない、という話が良かった。

言い回しの違いで意味が変わってくる

13の句集では一般的には使わないような言葉が度々出てくる。そこに疑問を抱く主人公。

後半に少しずつ言葉の意味がわかってくるんですが、このやりとりがこの物語の見どころだと思います。

謎が多いので気持ち悪い怖さはあるものの、ミステリー色の強い作品でした。

梅雨物語「ぼくとう奇譚」

「ぼくとう奇譚」のあらすじ

あそこを「あすこ」、カフェを「カッフェー」という言い回しに、大正から昭和初期くらいの時代を感じます。江戸川乱歩さんの小説を読んでいる感覚。

「カフェー・パピヨン・ノワール」に行く二人の男性。

男性の一人は「黒い蝶が出る夢」の話をカフェの店員にする。内容はおぼろげで、あまり良い結末が待っていない感じの夢だった。

カフェの帰りに賀茂日斎(かもにっさい)なる高名な行者に「その夢の行き着く先は地獄!」と突然登場し言われる。日斎は千里眼の持ち主らしい。

その後、日斎の言う通りに過ごす男性。部屋には日斎が結界を張っていた。

日斎が出張で他のところへ仕事をしている間に、日斎の代理で日晨(にっしん)という僧侶がやってくる。

日晨は日斎が貼っていたお札を全て剥がし、日斎の言いつけに逆らう方法で男性は過ごすことに。

行ってはいけない場所に行き、夢を何度も見る男性。

終盤はファンタジー寄りのおぞましい話になっていきます。

「ぼくとう奇譚」の良かったところ

賀茂日斎と日晨

この物語では、賀茂日斎と日晨という2人の強力な能力者が登場します。

「日晨(日震)」は著者の「さかさ星」というホラー小説にも登場します。途轍もない能力者で、化け物と言ってもいいかも知れません。一体、何年生きているんだろうか。

そして、賀茂日斎という人物ですが、同じく「さかさ星」に登場する能力者、賀茂禮子(かもれいこ)に関係する人物だと思われます。苗字が同じなので同じ家系か、もしくは師弟関係かも知れません。

賀茂と日晨。この二人は昔から因縁があったようです。

「さかさ星」も非常に面白い作品なので、梅雨物語を読んだ方はぜひチェックしてみてください。

雨月物語に関連しているっぽい?

賀茂日斎の命令で、男性は結界を張った部屋で過ごすことになりますが、この話が上田秋成の「雨月物語」の一篇に似ているらしい。

僕は雨月物語を読んだことがないので、機会があれば読んでみようと思います。Audible版をダウンロードしていますが、なかなか聞くタイミングが取れず。

もしかすると他の2篇も、雨月物語に似ている話なのかも知れませんね。梅雨物語というタイトルなので意識している可能性が高いです。

さまざまな虫と植物が登場する

終盤、非常に不気味な話になるんですが、様々な虫や植物が登場します。

それぞれの虫や植物の説明付きなので面白い。虫はちょっと気持ち悪いですが。

梅雨物語「くさびら」

「くさびら」のあらすじ

軽井沢に住む男性(主人公)。工業デザイナーをしている。男性の妻はキノコが好きで、東京にいた際にはよくキノコ料理を作ってあげていた。妻はキノコ料理も好きだが、キノコに関する知識も深く、キノコマニアだった。

男性の話から妻と子の存在は確認できるものの、物語には登場せず。途中で分かりますが、母子で家出をして連絡が途絶えているらしい。

家の敷地の芝生一面に、妖精の輪(フェアリーリング)を発見する。フェアリーリングとは、芝生がリング状に枯れたり、逆に生い茂った際、その上にキノコが生える現象。

近所に住む従兄弟が訪ねて来る。男性がフェアリーリングを汗だくで撤去している最中だった。しかし、従兄弟には男性が言うキノコの存在を確認できなかった。

従兄弟はそのキノコの話以外にも、男性をかなり気にしていて、何か重大な問題を抱えている感じが伺えます。

男性はさまざまな場所でキノコの幻影を見ることになり恐怖に震える。そして、大学時代の同じサークルにいた女性を思い出す。オカルト話が好きな女性で、キノコの興味深い話もしていた。

その女性を頼り連絡してみると、今は山伏になっていた。お祓いをしてもらうことになり、お祓いをしてもらったが、お祓いは失敗。

妻の母が依頼した探偵や、山伏の女性から紹介された「賀茂禮子(かもれいこ)」という能力者が登場して、物語はどんどん面白くなっていきます。

この作品は特にミステリー要素が強く、意表をついた展開になるので、最後まで是非読んでほしい作品です。

「くさびら」の良かったところ

くさびらとは?

タイトルのくさびらとは「菌」のことっぽいです。もしくはキノコそのもののことかも。

狂言の中に「くさびら」という演目があるそうで、男性の従兄弟も気になってその狂言について調べます。

ある男の家に大きなキノコが生えてくる。取っても一夜でまた生えてしまう、という内容。

賀茂禮子(かもれいこ)が登場

主人公の大学の友人から紹介された能力者、賀茂禮子。

「ぼくとう奇譚」と同じく著者の「さかさ星」というホラー小説にも賀茂禮子が登場します。

この物語では脇役ですが、終盤に豊富な知識と能力で解決に導きます。

環状紅斑が怖い

主人公は芝生のフェアリーリングを見て、祖父のことを思い出す。

生前、祖父の体の胸から腹にかけて、たくさんの赤い輪のような湿疹があった。

後から知ったが、これは環状紅斑と呼ばれるもので、重篤な疾患の危険信号らしい。

シンプルに病気が怖い。

幽霊が出る場所はキノコが関係している?

大学時代の友人の話が面白い。

幽霊は写真には写らないが、人の目には見えることがある。

空中にビジョンを投影することでそれが幽霊に見える。しかし、何もない場所に映像を見せるのは難しい。キノコの胞子がスクリーンとして適している。

幽霊はジメジメした場所に出ることが多いが、それはキノコの胞子が浮遊して、スクリーンとして投影させているから。

人の目は残像で絵をつなぎ合わせて映像として見ることができる。そして、見えないものを補完してしまう脳の働きもあり、なんでもない模様でも幽霊と勘違いしてしまう。

胞子のスクリーンと人間の目(脳)は幽霊を見てしまうのに相性がいいのかも。

幽霊についての考察が面白い

賀茂禮子による幽霊の話が面白い。

霊は肉体を失ってからは広い空間に拡散してしまう。だから道筋だった思考はできない。

生前によほど強い思いがあった時に、エネルギーを使いきって凝縮させ幽霊として現れる。

「我々が、目覚めるとすぐに夢を忘れるように、死者もまた、生きていたときの記憶を急速になくしていきます。生者と死者の本当の別れとは、生者が死者を忘れることではありません。死者が生者を忘れるのです」

くさびら

キノコの豆知識あれこれ

・主人公の妻は「キノコ葬」なる遺体処理を望んでいた。堆肥葬(そんなのあるんかい)は、日本では違法だが、アメリカでは合法らしい。

・キノコの胞子が遠くまで飛ぶ理由に適したのがベルヌーイ効果(飛行機が飛ぶ理屈)。

・キノコは自らの胞子で雨を降らせている話。(キノコには知性がある)

・キノコの毒と旨味成分は紙一重。かなり旨いらしいが食べると死ぬ「ドクツルタケ」の話。

などなど、キノコの面白い話がたくさん出てきます。

まとめ

3篇とも面白かったですが、特に3つ目の「くさびら」はかなり面白かったです。

著者の作品に「秋雨物語」という小説がありますが、順番としては「秋雨物語」が先に発刊されていたようです。

どちらもKindle Unlimitedでダウンロードして読もうと思っていて、梅雨の方が季節的に早いという理由で「梅雨物語」を先に読んでしまいました。

順序関係なく楽しめれば良いですが、次は「秋雨物語」を読む予定です。

「ぼくとう奇譚」と「くさびら」に登場した賀茂禮子と日晨。この因縁の対決は「秋雨物語」でもあるのか気になるところ。

そしてホラー小説「さかさ星」との関連性、シリーズとしての展開もかなり気になっています。

いずれにしても貴志祐介さんの作品が好きな方は楽しめると思います。

ぜひチェックしてみてください。

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