鈴木光司さんのホラー小説「エッジ(EDGE)」上・下巻の感想記事です。
2012年5月発行。
本の読み放題サブスク「Kindle Unlimited キンドルアンリミテッド」で読みました。
この小説はホラージャンルですが心霊現象が起きるという話ではありません。
本格的なホラーというよりは、ミステリー、サスペンス、SFの要素が強い作品でした。
発売当時はハードカバーで購入して読みましたが、最初読んだ時はちょっと物足りなかった記憶がありました。ですが、改めて時間が経って読んでみると面白かったです。
ざっくりあらすじ
世界中で人が突然消失する現象が起きる。
日本でも同じように消失事件が起き、フリーライターの主人公がその謎を追う。
みたいな内容です。
ここが良かった
上下巻あるのでページ数も多く、長編小説は物語が中だるみしがちです。ですがこの小説はずっと面白い。
リング、らせんのシリーズと同じように、鈴木光司さんの作品は数学・物理・科学的な話が多くて、この小説もそんな感じです。まさに著者の作品の真骨頂です。
気になった部分を引用
物理や科学的な内容の一部から、個人的に面白かったところを引用します。
主人公の父が原子と宇宙について説明するシーン。
世界は想像している以上にスカスカらしい。
原子は原子核とその周囲で動く電子で成り立つ
「ここに直径1ミリ、ゴマ粒大の原子核があるとしよう。すると電子は、ここから五十メートル離れたあたりを彷徨う、肉眼ではとらえられないぐらい小さな埃でしかない。」
エッジ
「物質はスカスカに構成されているのに、なぜ互いに通過することができないのか。」
「宇宙もまた似たようなものさ。太陽を直径十センチメートルのボールだと仮定しよう。すると地球はそのボールから十メートル離れたところを周回する直径1ミリのゴマ同然。ボールから400メートル離れたあたりにあるのが、一番外側の軌道を回る冥王星で、それが太陽系のおおよその大きさとなる。そこからもっとも近い恒星であるケンタウルス座プロキシマは、約二千五百キロも離れた距離にある。その間、何もない」
エッジ
「どうだ、原子の世界も、宇宙も、共にスカスカだろう」
「量子レベルで現象をとらえた場合、観察する側の心が、ものの状態に影響を与えるかのように見えることがある。」
エッジ
「観察した瞬間に波動関数が収縮するのは、人間だけに与えられた特権なのかしら…」
「波動関数?」
「シュレーディンガー方程式に出てくるプサイのこと。わたしたちが観測した途端、それまで確率論的に漂っていて、つかみどころのなかった量子の波はきゅっと収縮して居場所を明らかにするの」
歴史上、原因不明の集団失踪事件は数多く起きている。
エッジ
数十人規模から多い場合は数千人規模で、世界各地で集団疾走は生じてきた。いずれの場合も、死体は一体も発見されておらず、暴力や闘争の形跡もない。
紙に書いた文字は焼ければ灰と化す。しかし大地に配された巨石や岩に刻まれた文字は、容易に消すことができない。後の世にどうしても伝えなければならない情報があるとすれば、石の配置に意味を与え、石に刻んだ言語として残す他ないだろう。
エッジ
なるほど、世界七不思議にある遺跡だったり、ストーンヘンジのような環状列石などなど、後世に長くメッセージを伝えるには、石を使ったものが多いようです。
いくら理知的な人間であっても、あやふやな兆候から真実を読み取ろうとするときは、まず願望が先にあり、そこに物語を当てはめ強固な信仰へと昇華させがちということだ。
エッジ
不思議なことがあった時に、奇跡的な何かを願望しがちですが、答えがわかってしまうと不思議でも奇跡でもなく、ちょっとしたことがたまたま起こっただけだったりするのかも知れませんね。
なんだか拍子抜けですが、案外そういうものなんだろうなあ。
まとめ
10年振りくらいに再読してみましたが、やっぱり鈴木光司さんの作品は面白い!
まるで映画を観るかのように楽しめました。
鈴木光司さんの作品が好きな方はこの作品もぜひ読んでみてください。
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