当ページのリンクには広告が含まれています。

中島らもさんの小説「永遠も半ばを過ぎて」の感想。なんかすごい話。

中島らもさんの小説「永遠も半ばを過ぎて」先が読めない面白さ 小説
この記事は約4分で読めます。

中島らもさんの小説「永遠も半ばを過ぎて」の感想記事です。

どんな物語展開になるのか先が読めず最後まで面白かった。

1997年9月発行。

紙の本で2回読んだことがありますが、本の読み放題サブスク「Kindle Unlimited キンドルアンリミテッド」で登録されていたので3回目読んでみました。

Kindle Unlimited

gao the book
gao the book

よくこんな物語思いつくなあ。登場人物の職業がマイナーで面白い。

ざっくりあらすじ

写真植字(写植)という仕事をフリーでやっている男、その同級生の詐欺師、大手出版社で勤務する女性が登場します。

幽霊が書いた文章を本として売るという詐欺をやる話。

もうこれだけで面白い。

この本題に入るまでに、詐欺の話がたくさん登場します。読んでいても、一体この小説は何を書こうとしているのか全く意図が読めず「幽霊が書いた文章を本として売る」という話が来て、やっとなんとなく物語の筋がわかってきました。全体の7割くらいまで読んでやっとわかるという。

著者の中島らもさんは元々印刷会社の営業マンをやっていたので、印刷や紙に関する知識が豊富。この小説ではそのあたりの情報がたくさん書かれていました。

写真植字というのは僕も紙の印刷に関するデザイナーなので話は聞いたことがありますが、簡単に言うと文字の印刷のこと。僕が新卒デザイナーとして働いていた頃には、写真植字を使った印刷というのはおそらく絶滅していたっぽいです。

この小説を読みながら「写真植字機」をGoogleで検索してみて、やっとどのような機械なのかわかったくらいの認識です。

アナログなやり方から電算写植という方法が主流になって、写真植字という方法は廃れたらしい。クオークやInDesignというアプリケーションの登場も影響が大きかったと思います。

詐欺の話が面白い

この小説ではさまざまな詐欺の話が出てきます。普通に生活していると知る機会がないと思うので、非常に興味深い内容でした。

銀行員のふりをしてお金を貸すという詐欺が書かれていました。銀行というのは上得意客に対しては応接間を提供することがよくあるらしい。銀行という場所で詐欺をされると普通思わないから、そりゃ騙されるわなあ。

もう一つ、求人広告を出している中小企業に行って雇ってもらう。そしてお金を前借りして、そのままトンズラする詐欺。

他にも色々あって面白かった。(やられる側はたまったもんじゃないけど、まあ、フィクションということで)

よかったところを引用

大金持ちも実は何かを失っていることに気づいていない、ということなのかな。

「ひとつ手に入れると、ひとつ失うのよ。何でも手に入れる男は、鈍感なだけ。失ったことは忘れてしまう。哀しみの感情がないのよ、わかる?」

永遠も半ばを過ぎて

教祖は40過ぎの女性が多い?らしい。

誰かが何かに取っ憑かれて自分の人格以外のものを書き出すってことは、そう珍しいことではない。ことに宗教関係の教祖と言われる人にはそれが多いな。たいていの場合、四十過ぎの更年期の女性。それも生涯非常な苦労を続けてきて、満足な教育を受けていない女性に多い。こういう人がある日突然神の啓示受けて、連綿と神の言葉を書き始めるわけだ。そういう例は非常に多いよ。

永遠も半ばを過ぎて

この小説の一番の文章↓

孤独というのは、「妄想」だ、孤独という言葉を知ってから人は孤独になったんだ。同じように、幸福という言葉を知って初めて人間は不幸になったのだ。
人は自分の心に名前がないことに耐えられないのだ。そして、孤独や不幸の看板にすがりつく。私はそんなに簡単なのはご免だ。不定型のまま、混沌として、名をつけられずにいたい。この二十年、男と暮らしたこともあったし一人でいたこともあったけれど、私は自分を孤独だと思ったことはない。私の心に名前をつけないでほしい。どうしてもというなら、私には一万語くらいの名前が必要だ。

永遠も半ばを過ぎて

生きているってのは異様ですよ。みんな死んでるのにね。異様だし不安だし、水の中でもがいているような感じがする。だから人間は言葉を造ったんですよ。卑怯だから、人間は。

永遠も半ばを過ぎて

まとめ

引用文の他に主人公たちの会話の中でウィジャ盤というものが登場します。これは西洋のこっくりさんらしい。

物語の面白さに加えて、中島らもさんの文章は本当に整然として読みやすいので、普段本を読まない人にもおすすめです。

他の小説やエッセイを読むとわかりやすいんですが、らもさんの作品はなんかこうひっそりと人を笑わせようとしているところがあります。そういうのが文章に滲み出てる時があるから本当に油断なりません。

文章のうまさとか物語の内容とかそういうこと以外に、らもさんならではの人としての味がどの文章にもあるので、なんだかんだで読んでしまうんだろうなあ。

以前記事に書いた「今夜、すべてのバーで」も超おすすめです。

コメント