逢坂冬馬さんの小説「同志少女よ、敵を撃て」の感想。オーディブルで聴きました。
2021年11月発刊。オーディブル版は2022年4月配信開始。
この小説は第11回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞。他にもいくつかの賞の候補に上がっていた作品。
オーディブルのサイト内でも話題作として取り上げられていたので聴いてみました。オーディブルは聴き放題で話題作がたくさん聞けるのでおすすめです。
独ソ戦を舞台にしたフィクション小説。
小説「同志少女よ、敵を撃て」は面白い?
小説「同志少女よ、敵を撃て」は面白いか、面白くないか、で言うと面白い作品でした。
戦争に関する本を読んだり、戦争映画を観ると毎度やるせない気持ちになりますね。
この小説が他の戦争を題材にした物語と違うのは、若い女性がスナイパーとして戦争に参加するところ。
戦争中の女性の存在は国によって違うらしいですが(この小説でそのあたりのことも書かれていました)、男性よりも虐げられている傾向にあります。
残酷な世界の中で、しかも弱い立場にある女性視点の戦争物語は読んでいて新鮮でした。
小説「同志少女よ、敵を撃て」のざっくりあらすじ
独ソ戦を舞台にしたフィクション小説。(1941年あたりの物語)
主人公の女性セラフィマの住む小さな村に、突如ドイツ軍が攻めてきて村の住人は全員惨殺される。
赤軍が助けに来るが時すでに遅し。赤軍の女性兵士イリーナがセラフィマを兵士に誘う。
※ちなみに、赤軍の意味を知らなかったので調べてみると、ソ連の陸軍のことらしいです。
イリーナは同じような境遇の少女たちを訓練所に集めて、スナイパー部隊を育成する。
何人かの少女たちはその過酷な訓練についていけず脱落するが、残った少女たち(セラフィマ含め)は精鋭のスナイパーとして活躍する。
女性スナイパー小隊は、いつしか「魔女小隊」と呼ばれるようになる。
仲間が少しずつ犠牲になっていく中、主人公セラフィマは「弱い立場の女性たち全てを救う」という使命を胸に壮絶な戦に身を投じる、という物語です。
長編小説ですが、途中で読むのに疲れることなく最後まで楽しめる作品でした。
物語の中では、他の本の引用などもあって、実際に起きた戦争にかなり忠実な内容のようです。
2年くらい前に「独ソ戦」という新書を読みましたが、内容をほとんど覚えておらず、せっかく読んだのにあまり知識を活かせませんでした ^^;
ドイツもソ連も戦争に参加した人数と被害者の数が凄まじい、という超大雑把な記憶だけはありました。この新書の著者も近代戦争の中でも最大の地獄と書いていました。
「同志少女よ、敵を撃て」の物語も戦争の悲惨さをこれでもかと描いています。
特に主人公は、物語の序盤と終盤では変わってしまっていて壮絶さがうかがえます。
ナレーションがうますぎる
オーディブルは読書と違ってナレーションがあるのが魅力です。
この作品は声優の青木瑠璃子さんが担当していて、とにかくもうナレーションが素晴らしい。
登場人物が多い作品ですが、声の使い分けも本当にすごい。
個人的に気になったところ
言葉の意味がわからなかったので調べてみました
オーディブルは耳から情報が入ってくるので、漢字や英語の綴りがわかりません。その点が唯一の欠点かなあ。
僕自身が歴史について疎いので、不明だった言葉についてウェブ上で調べてみました。多少間違っている可能性もありますが、なんとなくこんな感じということで。
- 焦土作戦…拠点を焼き払う。敵に有効に利用されるのを防ぐため。作中では主人公の村が焼き払われます。
- コルホーズ…集団農場。農家たちの間で農業機械や土地が共有されている。
- ソフホーズ…コルホーズと同じ集団農場。土地や農具は国のもの。アルバイトのように賃金をもらって働く。
- ファシスト…独裁主義の人。ファシズムは独裁主義。
- コサック…半農半牧生活を送りながら、ロシアの辺境警備などにあたる人たち。
- NKVD…内務人民委員部。刑事警察、秘密警察。主人公セラフィマが所属する魔女小隊の中にも一人、このNKVDが紛れ込んでいます。
- パルチザン…戦争における非正規の軍事活動をする遊撃隊。この作品では村民がパルチザンとなり戦うシーンがありました。
- 督戦隊…戦争中に逃げる裏切り者を処刑する。僕はNKVDとこの督戦隊の意味を履き違えているかも知れません。誰か違いを教えて。
スナイパーの座学がすごい
物語では時間をかけてイリーナがセラフィマたちにスナイパーの座学を教えます。
かなりリアルな内容で、相手を殺すための技術や知識がきちんと存在していることに衝撃を受けました。
スナイパーという一つの部隊だけでもこの技術と知識なので、他の部隊や、空軍、海軍もこういう座学があるんでしょうね。
まとめ
スナイパーは何人敵を撃ち落としたかで、位が上がっていきます。このシステムの影響もあってか、セラフィマも同じ小隊の仲間も、人を殺すことで自分が変わってしまうシーンがあります。
セラフィマが敵に照準を合わせる時に明鏡止水の境地に至るシーンも見どころ。
暴力、裏切り、拷問、女性への陵辱など、戦争の話はやっぱりキツイなあ。
今日ちゃんとご飯が食べれること、雨や風が凌げてきちんと眠れる家があること、そんな当たり前な生活に感謝の気持ちを抱かずにはいられませんでした。
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