村田沙耶香さん著、短編小説集「信仰」の感想記事です。
2022年6月発刊。
この小説は本の読み放題サブスク「Kindle Unlimited キンドルアンリミテッド」で読みました。
短編集だと思って読んでいたら、途中でエッセイも挟んでいました。どの話も奇妙な話というか、ぶっとんでます 笑。
村田沙耶香さんの小説「信仰」について
「信仰」は短編小説とエッセイが入った短編集です。
個人的には表題の「信仰」が一番印象的でした。
幼馴染から「カルト教団を作ろう」と誘いを受ける話。天動説セラピーなる怪しげなスピリチュアル。教祖は同級生の女性。立派に教祖の役柄になりきって、石を高額な値段で信者に売ります。ツッコミどころもあって面白い作品でした。
他に、生存率セラピーが登場する話、人が野生に帰って野人になる話、イマジナリー宇宙人の話、個性に関するエッセイ、自分のクローンと生活する話などなど。とんでもない話ばかりでSF要素が結構あります。
個性について
ちょうどいい個性について。
著者の小説「コンビニ人間」でも似たような話が出ていたけれど、これはやっぱり著者自身の体験を通した考え方だったんだなあ。
当時の私は、「個性」とは、「大人たちにとって気持ちがいい、想像がつく範囲の、ちょうどいい、素敵な特徴を見せてください!」という意味の言葉なのだな、と思った。私は(多くの思春期の子供がそうだあるように)容易くその言葉を使い、一方で本当の異物はあっさりと排除する大人
信仰
個性が大事と言いながら、異なる意見をすると迫害される。著者はそれを避けるために、他のみんなが笑うところは一緒に笑ったりして、周りの喋り方や行動をトレースしていたそうです。
特に学生の頃は枠をはみ出さないことが大事、という共通の圧力みたいなもがある気がする。先生も突飛な行動をする生徒は相手にしたくないだろうし。
著者が社会人になると、奇妙さは「狂っている」という「いい意味」で需要されるようになり、自分の人生をやっと肯定できるようになったらしい。
近年よく耳にする「多様性」について
これは安全な場所から異物をキャラクター化して安心するという形の、受容に見せかけたラベリングであり、排除なのだ、と気づいた。そして、自分がそれを多様性と勘違いをして広めたことにも。
信仰
どうか、もっと私がついていけないくらい、私があまりの気持ち悪さに吐き気を催すくらい、世界の多様化が進んでいきますように。今、私はそう願っている。何度も嘔吐を繰り返し、考え続け、自分を裁き続けることができますように。「多様性」とは、私にとって、そんな祈りを含んだ言葉になっている。
信仰
奇妙な行動によって周りから迫害されないように自分を押し殺して人生を歩む。その生きづらさは相当なものだったようです。
まとめ
著者の「コンビニ人間」を読んだ後に、Kindle Unlimitedで「信仰」も読めたのですぐ読みました。
コンビニ人間のような傑作ではありませんでしたが、非常に奇妙な話ばかりの短編集、という印象でした。
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